ソーシャルアクションラボ

2022.10.26

シティプロモーションとは 意味や戦略の進め方について解説

移住促進や観光客の呼び込みのため、いかに魅力を発信していくか。多くの自治体の担当者が頭を悩ますポイントでしょう。そんななか、注目されている言葉が「シティプロモーション」です。自治体の将来を左右する重要な取り組みといえます。ここでは、シティプロモーションの意味や戦略の進め方、成功例などをご紹介します。

シティプロモーションの意味と目的

シティプロモーションとは、地域の認知度やブランド力の向上を目的とした広報活動・営業活動のことを指します。例えば「地域の特産品をメディアを通じて発信する」「地域のマスコットとして『ゆるキャラ』を作ってみる」といったものが挙げられるでしょう。

全国の都道府県議会議事録を検索できる「全国47都道府県議会議事録横断検索」で調べてみると、1990年代からシティプロモーションという言葉が県議会で取り上げられはじめています。頻度は2000年代前半から増え始め、2010年には12件、2015年には59件と激増しています。少子高齢化が進み、各自治体の人口も減っていく過程で、地域活性化の一つの方法としてシティプロモーションが注目されたと考えられるでしょう。

シティプロモーションの目的として、地域のイメージを向上させて地域外から人を呼び込むことが挙げられます。また、地域住民に地域対する愛着を持ってもらうことも目的の一つ。どれだけ地域外から移住者や観光客を呼び込めたとしても、地域住民が愛着を感じていなければ転出者が増えてしまうでしょう。地域内外に自治体の魅力を発信していく活動こそがシティプロモーションなのです。

シティプロモーションが必要な理由

前述の通り、シティプロモーションには「営業活動」という意味が含まれています。自治体の魅力を「売り込んでいく」という姿勢が求められているのです。

どれだけ魅力的な場所や制度があったとしても、地域外の人に伝わっていなければ意味がありません。それは、地域に住む住民に対しても同じことがいえるでしょう。多くの自治体が人口減少という課題を抱えており、それぞれが地域の魅力発信に努めています。PR競争が激しくなる中で、積極的にシティプロモーションに取り組んでいく必要があるのです。

シティプロモーション戦略の進め方

シティプロモーションには、「SNSや紙媒体での情報発信」「地域外に特産品を扱ったアンテナショップを展開する」「『ゆるキャラ』を作って地域外で宣伝する」といったさまざまな方法があります。しかし、これらはあくまで手段です。まずはシティプロモーションの戦略を立て、手段に落とし込んでいく必要があります。

まずは、「どんな地域を目指していくか」という自治体の姿を明確にすることが必要でしょう。目指す姿はすでに地域が持っている資源にあるかもしれないですし、これからの都市計画にあるのかもしれません。いずれにせよ、シティプロモーションを進める上での軸となるものを設定することが大切でしょう。

軸が決まれば、地域の魅力を売り込んでいく「ターゲット」が見えてきます。ターゲットが見えてくることで、SNSや紙媒体、もしくはアンテナショップの展開といった手段が明確になるのです。

シティプロモーションの成功例

ここでは、国内のシティプロモーションの事例について見ていきます。

福井県鯖江市の「めがねのまちさばえ」「鯖江市役所JK課」

福井県鯖江市はメガネフレームの国内生産シェアが90%以上を占めている

福井県鯖江市は、メガネフレームの国内生産シェアが90%以上を占めるなど、メガネ産業において大きな役割を担っています。「めがねのまちさばえ」と銘打つことで地域外の知名度を向上させるのと同時に、関連産業の活性化を進めて雇用を生み出し、移住者の呼び込みを進めています。

また、転出者を減らす取り組みの一つとして、市内の女子高生が主役のプロジェクト「鯖江市役所JK課」を2014年に立ち上げました。プロジェクトでは年度ごとに市内在住、または市内の高校に通学する女子高生などを対象にメンバーを募り、地元企業・団体と共同でアプリ開発やスイーツ商品企画などを行っています。

若い世代が活躍できる環境を整え、取り組みをPRした結果、令和2(2020)年度の国税調査の結果では福井県内で唯一人口が増加しました。

福岡県北九州市と山口県下関市のPR動画

福岡県北九州市と山口県下関市は共同で関門海峡の知名度向上を目的にPR動画を制作した

福岡県北九州市と山口県下関市を隔てる関門海峡の知名度向上を目的とした両市共同のPR動画「COME ON!関門!~海峡怪獣~」は、YouTubeで2億回再生(執筆時点)を誇るなど、自治体としては異例の再生回数を稼いでいます。

内容は、関門海峡に「海峡怪獣カイセンドン」が出現し、街中がパニックになるというもの。カイセンドンは、漁師の名産であるフグ、カニ、タコを合わせた姿をしています。制作にはプロの映画監督や映像制作会社が携わっており、高クオリティーの映像となっています。

ターゲットは外国人観光客としているため、セリフは英語です。また、字幕をハングルや繁体字にしたバージョンも用意しています。結果、インドやベトナム、アメリカなどでも数百万回から数千万回(2019年時点)再生されるなど、関門海峡の知名度向上に一役買っています。

千葉県流山市の「母になるなら、流山市」

千葉県流山市は共働き夫婦の移住・定住を促進するためのPRを進めている

千葉県流山市は共働き夫婦の移住・定住を促進するために、「母になるなら、流山市」というキャッチコピーを作り、首都圏の駅などでポスターを掲示してPRを進めてきました。ポスターには実際に東京都から流山市に移住してきた市民をモデルに起用しています。もちろん、PRだけでなく子育てがしやすい環境作りも同時に進めてきました。

結果、「流山市=子育てがしやすい街」というイメージが定着し、令和2(2020)年度の国勢調査の結果では、千葉県内で人口増加率が一番になっています。流山市の記事はこちらです。

まずはシティプロモーションの軸作りを

ここまでシティプロモーションの概要や事例について見てきました。事例からも分かる通り、シティプロモーションに成功している自治体は「どんなまちづくりをしていくか」「何を魅力として打ち出すか」という点が明確です。軸がないPRは、どんな手段を取ったとしても成功させることは難しいでしょう。自分の地域の魅力は何なのか考えることが、シティプロモーションの第一歩といえるでしょう。