ソーシャルアクションラボ

2022.10.26

シビックテックとは 意味や事例を解説

新型コロナウイルスの感染拡大や少子高齢化による社会構造の変化もあって、「シビックテック(Civic Tech)」という言葉が注目を集めるようになりました。地域の課題を解決する切り札となり得るシビックテック。本稿では、シビックテックの国内外の状況や導入に当たってのポイント、事例についてご紹介します。

シビックテックの概要

シビックテックとは、市民(Civic)とテック(Tech、テクノロジーのこと)を組み合わせた言葉です。市民自らが、テクノロジーの力を使い、行政サービスの改善や地域課題の解決を目指すことを指しています。地域の社会課題について、従来は行政が解決に向けて動いていました。しかし、価値観やライフスタイルが多様化する中で、すべての課題解決を行政が担うのは限界が来ています。そこで、市民も社会課題解決の担い手になることが求められているのです。多くの人がデジタル技術を利用できるようになった今、市民の活躍の場は広がりつつあります。

シビックテックが注目を集めている背景はさまざまです。

まずは、行政サービスへのアクセスのしやすさが求められるようになったことが挙げられます。銀行や証券といった金融サービスは、基本的に窓口で対面してのサービス提供が一般的でした。しかし、今ではインターネット上で取引可能となっています。行政サービスにも同等のアクセスのしやすさが求められています。

次に、「社会貢献に対する意識の高まり」です。日本では、地震や豪雨といった甚大な災害が頻繁に発生しています。特に、2011年の東日本大震災は、人々の意識を大きく変えるきっかけとなりました。災害が多発するなか、「自分が社会のために何ができるか」という意識が高まったともいえます。コロナ禍も、これまでの社会のありかたを誰もが考える契機となりました。これまで行政が担っていた分野に、市民が参加するケースが増えつつあります。

また、少子高齢化が進んでいることも背景の一つとして挙げられるでしょう。高齢者が増えている地域は、行政サービスの需要が増える傾向にあります。行政がサービスの担い手となるだけでは限界があるため、市民がサービスを補完する立場になりつつあるのです。

シビックテックの海外の状況

シビックテックは、2000年代後半から世界的に注目され始めました。米国では、オバマ政権下に非営利団体のコード・フォー・アメリカがさまざまな改革を進めています。改革はオバマ大統領の「Transparency and Open Government(透明性と開かれた政府)」という投書に沿う形で進められています。投書では「行政部門や政府機関は、新しいテクノロジーを利用し、業務や決定に関する情報をオンラインで一般に公開する必要がある」としたうえで、「行政部門および機関は、一般の人々にとって最も有用な情報を特定するため、一般のフィードバックを求める必要がある」と主張しています。同団体は、行政の現場にデザイナーやエンジニア、プロジェクトマネジャーを派遣。地域の課題を解決するサービスを次々と生み出しました。例えば、「地域の公立学校を選ぶ際に参照する冊子が分かりにくい」という課題に対しては、地図サービスを利用したウェブサイトを開発。学校についての情報が一目で分かる仕組みを作りました。

最近では、コロナに関する台湾の取り組みも注目を集めた事例の一つでしょう。デジタル担当大臣のオードリー・ターン氏主導のもと、マスクの在庫データをまとめた「マスクマップ」を開発。開発後はマップをオープンソース化することで、一般のエンジニア(シビックハッカー)が手を加えられるようにし、官民共同でマップを完成させました。

このように、海外では、すでにシビックテックの概念が浸透しているといえるでしょう。

シビックテックの国内の状況

日本でシビックテックが注目されたきっかけの一つが東日本大震災でした。震災直後には被害状況を伝えるサイト「シンサイ・インフォ」がオープンするなど、一般の技術者が復興支援のためにウェブサイトを開設する動きが見られました。

コロナ禍では、東京都が「新型コロナウイルス感染症対策サイト」をオープン。開発を受託したのは一般社団法人コード・フォー・ジャパンで、オープン後はソースコードを一般公開しました。一般のエンジニアが改良を加え、東京都以外の自治体もソースコードを活用。他自治体の対策サイトも順次公開される流れが生まれました。

現在はコード・フォー・カナザワなど、地方でもシビックテックを担う団体が誕生し、全国に輪が広がりつつあります。

シビックテック導入のポイント

シビックテックを導入する上で、まずは地域の課題を洗い出すことが大切です。テクノロジーの力を取り入れること自体が目的にならないよう、「どんな課題があり、テクノロジーがどういった形で課題解決に役立つのか」といった視点で戦略設計に取り組みましょう。課題が顕在化していない、または課題はあるもののどのようなアプローチで解決に向けて動けばよいのか分からないという場合は、市民にヒアリングしてみるのも一つの方法でしょう。

課題が分かり、テクノロジーを導入するとしても、実際に使用する市民にとって使いにくいものになってしまっては意味がありません。アプリやWEBサイトを開発するとしても、利用者層が30代か、または60代かなど、年齢によってデザインが異なってきます。そのほか性別や職業、デジタル技術に慣れているかといったところもポイントになってくるでしょう。ここでも、使用している市民の姿を具体的にイメージすることが重要となります。

最後に、実際にサービスを利用した市民のフィードバックを生かしましょう。前述の台湾や東京都の事例でも、市民の手が加わることでより良いサービスとすることができました。シビックテックに取り組む際は、市民に対して開かれたサービスにしておくことも大切です。

シビックテックの事例

シビックテックの事例について見ていきましょう。

金沢市の「5374.jp」

金沢市はごみの分別方法が複数種類アリ、「いつどのごみを出せば良いか分からない」という市民の声がありました。そこで、前述のコード・フォー・カナザワが開発したアプリが「5374(ゴミナシ).jp」です。アプリに居住地を登録しておくと、収集日に通知が届く仕組みです。アプリ上の表示もシンプルな色遣いを採用しており、幅広い年齢層が使用できるものとなっています。ソースコードはオープンになっているため、金沢市外でもアプリの利用が広がっています。

スマートフォンアプリ「ガッコム安全ナビ」

全国の保育園や幼稚園、小中学校の情報をまとめたサイトを運営している株式会社ガッコムが開発したサイト・アプリが、「ガッコム安全ナビ」です。サイトでは全国の自治体や警察が発表した不審者情報や盗撮、ひったくりといった事件を地図上でまとめて無料で公開しています。事件の種類ごとにアイコンがあり、地図上で表示。表示されたアイコンをクリックすると、事件の詳細を知ることができます。地域をパトロールするボランティア団体も活用しているなど、地域の治安維持に貢献しています。

マンホール蓋情報アプリ「Manhoo!」

株式会社東芝とタイムカプセル株式会社が共同で開発したアプリ「Manhoo!(マンホー)」は、マンホール蓋の写真を撮影し、地図上に投稿してシェアするアプリです。マンホール蓋にはその地域ならではの「ご当地マンホール蓋」があり、一定数のファンが存在しています。

マンホール蓋のファンに向けたアプリであるだけでなく、地域貢献にも寄与しています。特殊なマンホール蓋を見つけたユーザーは、アプリ上でデザインカードをもらえます。カードには、マンホール蓋周辺にある商店のクーポン情報が記載されています。地域を回遊してもらうための仕組が施されているのです。

また、マンホール蓋については、耐用年数を超えてしまっているものもあるという課題が存在します。大都市以外の地方自治体では、マンホール蓋の管理台帳の情報が不十分である場合もありますが、「Manhoo!」に投稿されていくデータが貴重な情報源となり得ます。多くの市民が地域課題解決の担い手になり得るという意味で、シビックテックの好例の一つといえるでしょう。

情報をオープンにすることが重要

ここまでシビックテックについて解説してきました。いくつかの事例で共通していることは、「情報をオープンにしている」という点です。シビックテックの取り組みを始めたのが行政であっても、市民であっても、それぞれがそれぞれの情報を開示し、協力しながらより良いサービスにしていくことが重要です。地域課題を洗い出し、具体的にどんな点で市民が不便を感じているのか明らかにしたうえで、シビックテックの取り組みを進めていきましょう。