2022.10.27
地域ブランドとは 概要や成功事例について解説
目次
北海道夕張市と聞いて、「夕張メロン」を思い浮かべる方は多いでしょう。それは夕張市がブランディングに成功しているからです。地域のイメージを瞬時に思い浮かべてもらう上で、地域ブランドの構築がカギを握ります。本稿では、地域ブランドの概要や構築のステップ、成功のために必要なことを解説。成功事例についても紹介します。
地域ブランドとは
地域ブランドの概要について見る前に、ブランドの意味について解説します。また、地域ブランドが求められている背景についても見ていきます。
ブランドとは
そもそも、「ブランド」とは何でしょうか。ブランド(brand)の語源は、「焼き印を押す」という意味の「Burned」です。自分の家畜と他人の家畜を見分けるために焼き印を押していた歴史があり、現在のブランドにつながったという説があります。
さまざまな専門家が、ブランドについて定義づけています。その中でも、ブランド論の第一人者であるデービッド・アーカー氏は、著書『ブランド論 無形の差別化をつくる20の基本原則』(ダイヤモンド社)で、「(ブランドは)組織から顧客への約束である。そのブランドが著すものが、機能面だけでなく、情緒面や自己表現、人間関係においても役立つという約束を守ることである」と主張しています。その上で「ブランドとは長い旅路のようなものである。顧客がそのブランドに触れるたびに生まれる感触や体験をもとにして、次々に積み重なり変化していく顧客との関係なのだ」とも説明しています。
ブランドとは、組織が持っている文化を守りつつ、顧客の満足度と愛着を高めることで育てていくものだといえるでしょう。
地域ブランドの概要
特許庁が発行している「地域団体商標ガイドブック~地域ブランド10の成功物語~」では、地域ブランドを「商品の品質をはじめ、ほかの地域にない独自性、こだわり、地域自体に感じる魅力、歴史・文化などさまざまな要素を活かしたもの」と解説しています。さらには「その地域ならではの『モノ』や『コト』を活用することで、ほかの地域ではまねできない“真に強いブランド”になることができます」とも説明しています。
また、沖縄県が発行している「地域ブランドづくり応援ブック」内では、地域ブランドについて「商品やサービスに地域性などを加えることで価値を高め、それが地域外の消費者などから評判を得ることによって、地域全体のイメージ向上や地域活性化に結びつけるもの」と定義づけています。
地域ブランドと聞くと、地域の特産品をPRしていくことを思い浮かべる方も多いかもしれません。しかし、上記の定義を見てみると、歴史や文化といった地域独自のストーリーを伝えていくことがカギを握りそうです。また、地域内で商品やサービスをブランドとして根付かせることは必須ですが、その価値が外部に伝わり、結果として地域のイメージ向上に貢献するものでなければ意味のないものとなってしまうでしょう。
地域ブランドが求められる背景
地域ブランドが求められる背景として、人々のニーズの変化が挙げられます。
高度経済成長期など、著しい経済成長にあるころは「モノを作れば売れる」「より安く作れば売れる」という時代でした。当初は画期的な品質、他社に負けない安値で商品を販売する企業が成長していましたが、多くの企業が独自の努力を続けることで、「安くても質の高い商品」というのが当たり前になったのです。
消費者側からすれば商品の品質が良いことは当たり前となり、従来とは違う観点で商品を選ぶようになりました。例えば、「この商品を生み出している企業の理念に共感できる」「この商品に込められたストーリーやこだわりが興味深い」といったことが挙げられるでしょう。モノそのものの価値よりも、モノに込められたコトを基準にしているといえます。
上記のような背景があるため、企業だけでなく自治体側もブランドを意識する必要があるのです。
地域ブランドを構築するステップ
地域ブランドを構築する上では、次のステップが必要になります。
1.地域ブランド構築の目的の明確化
なぜ地域ブランドを構築するのか、目的を明確にしましょう。例えば「地域外からの観光客を呼び込む」と言っても、「県内の周辺地域」「県外」「海外」のどこから呼び込むのかによって、打ち出すメッセージも変わってくるでしょう。目的を明確にする際は、自治体内だけでなく、協力してくれる企業や団体とともに合意形成を進めていきましょう。
2.地域資源の掘り起こしとターゲット設定
地域ブランドとしてPRしていく地域資源を掘り起こしていきましょう。歴史のある特産品や、何かの分野で日本一を獲得しているものなどが挙げられるでしょう。
PR先のターゲットを設定しておくことも必要です。ターゲットの年齢や居住地、ライフスタイルなど、より詳細に設定していきましょう。ターゲットがどのように商品を認知し、情報収集し、比較検討した後に購入するかを描いたカスタマージャーニーマップを描くことも大切です。
3.商品開発
掘り起こした地域資源をもとに、商品開発を進めていきましょう。商品開発をする上では、「できるだけ多くの関係者が携われるようになる」という視点を意識するのも一つの手です。
例えば長崎県松浦市では、日本一の漁獲量を誇るアジをPRする上で、「アジフライ」として打ち出すことで、水産業関係者だけでなく飲食業関係者も巻き込むことに成功しています(同市の事例はこちら)。
4.販促活動
実際に販促活動に取り組んでみましょう。実際に取り組んでみないと、効果や実施体制についての課題は分かりません。とにかく実践してみましょう。
販促活動は、ターゲットやカスタマージャーニーマップからずれることのないように実施してください。
5.振り返りと施策の改良
販促活動について振り返り、施策を改善しましょう。「設定したターゲットは正しかったか」「伝えるメッセージは適切だったか」などの観点で、振り返りを進めていきます。課題と改良点については、自治体外の関係者にも共有し、協力しながら施策を再実行していきましょう。
地域ブランドを成功させるために必要なこと
地域ブランドを成功させるために必要なことについて解説します。
ストーリーを伝える
前述の通り、地域ブランドを構築するためには地域資源を掘り起こす必要があります。同時に、地域資源に関するストーリーを伝えていかなければなりません。商品を開発する際は、「なぜその商品を開発しようと思ったのか」「商品のもととなった地域資源のストーリーとは何なのか」といった部分についても整理しておきましょう。
ストーリーを語ることをストーリーテリングと呼びます。人々は昔からストーリーに親しんでおり、ストーリーに魅了されるという性質を持っています。自分たちの地域ブランドにしかないストーリーを語ることで、他の自治体との差別化にもつながるでしょう。
地域に住む人々の協力
地域ブランドを構築する際は、地域に住む人々に強力を得ながら進めていきましょう。地域ブランドを構築するにあたって、地域外の人に向けて情報を発信することになりますが、そもそも地域内の人々がブランドについて認知していないと大きな効果を生むことはできません。地域の人がブランドについて誇りを持って初めて、その魅力が地域外の人にも伝わります。
自治体、または関係企業や団体だけで取り組みを進めるのではなく、より多くの一般市民を巻き込む仕掛けが必要となってくるでしょう。
地域ブランドの成功事例
地域ブランドの成功事例について見ていきましょう。
香川県の讃岐うどん
香川県の讃岐うどんは、地域ブランドの典型的な例の一つといっていいでしょう。香川県は年間の降水量が少なく、気候が乾燥していることから小麦と塩の生産に適しており、農家の副業として明治維新以降に生産が盛んになったという背景があります。また、四国八十八ヶ所巡りのお遍路さんをうどんでおもてなしする「お接待」という文化もあり、地域ならではの食文化が根付いています。
多くの観光客がうどんの食べ歩きのために訪れるだけでなく、県内のメーカーが冷凍讃岐うどんを開発するなど、企業もPRに一役買っています。うどんの食べ歩きのためのタクシーサービス「うどんタクシー」では、ドライバーが讃岐うどんの歴史を利用者に伝えながら店舗を回るなど、ストーリーを伝える仕組みもあります。
多くの人を巻き込んだ取り組みによって、「香川県=讃岐うどん」というイメージが一般的になったのです。
兵庫県南あわじ市の3年とらふぐ
淡路島の特産品である「3年とらふぐ」。通常の養殖とらふぐは2年で出荷されますが、「3年とらふぐ」は、もう1年長く養殖されて集荷されます。事例の舞台である兵庫県南あわじ市の福良漁業協同組合でも、かつては2年で出荷していました。しかし、とらふぐの成長が良くなかったことから、約25年前に1年延長して出荷されたことで「3年とらふぐ」が誕生しました。
飲食店や宿泊業関係者からは評価の高かった「3年とらふぐ」ですが、誕生当時は一般的な知名度は低い状態でした。そこで、同組合は2011年6月に「淡路島3年とらふぐ」の地域団体商標を取得。これをきっかけにマスコミで取り上げられるようになり、淡路島観光協会を共同でPRに努めたことで、一般層にも知名度を広げていきました。淡路島は冬が閑散期ですが、冬でも観光客を呼び込む地域ブランドに成長しています。
“モノ”よりも“コト”に注力を
ここまで、地域ブランドの概要や構築のステップ、事例などについて見ていきました。消費者のニーズはモノそのものよりも、モノに込められたストーリーを求める傾向にあります。自治体側はニーズに応えるべく、“モノ”よりも“コト”に注力する必要があるでしょう。地域ブランドを構築する際は地域資源をただPRするのではなく、戦略を練ったうえで取り組みを進めてください。
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