2022.10.27
グリーンツーリズムとは 事例や課題について解説
目次
新型コロナウイルスの影響により、人々の価値観は一変しました。リモートワークが普及して働く場所の選択肢が増えたことで、都市部以外の地域への注目度も高まっています。そんななか、注目されるのが農山漁村地域に宿泊する「農泊」です。本稿では、農泊を考える上で重要になるグリーンツーリズムについて詳しく解説します。
グリーンツーリズムの概要
同省は、グリーンツーリズムを「緑豊かな農村地域において、その自然、文化、人々との交流を楽しむ、滞在型の余暇活動」と定義しています。その上で、「農村で生活する人も農村を訪ねる人も『最高のクオリティライフ』を享受できるものでなければならない」と提言しています。
グリーンツーリズムは元々欧州で発達した考え方です。欧州では、余暇を農村で過ごす人々が従来から多く存在しました。欧州を参考に、日本でもグリーンツーリズムを取り入れるための仕組みづくりが活発化。1994年には、農林漁業体験民宿の登録を制度化する「農山漁村滞在型余暇活動のための基盤整備の促進に関する法律(農山漁村余暇法)」が制定されました。その後も改正や規制緩和が実施され、農山漁村の活性化の一つの手段とされています。
グリーンツーリズムの具体的な取り組みとしては、農山漁村で獲れた食材を使った料理を提供する「農家レストラン」や、農家などが経営する「農家民宿」が挙げられます。また、農作物の収穫が体験できる「観光農園」もグリーンツーリズムの一つの形です。
グリーンツーリズムと似ている言葉との違い
グリーンツーリズムと似ている言葉に「アグリツーリズム」「エコツーリズム」「サステナブルツーリズム」があります。それぞれのグリーンツーリズムとの違いについて見ていきましょう。
アグリツーリズム
アグリツーリズムは、農場や農村で余暇を過ごすことを意味しています。グリーンツーリズムと重なる部分がありますが、エコツーリズムは漁村で過ごすことも含みます。アグリツーリズムはエコツーリズムよりも範囲が狭い概念であるといえるでしょう。
エコツーリズム
エコツーリズムとは、地域の自然環境や歴史文化といった魅力を観光客に伝え、その価値を理解してもらうことを通して、地域資源の保全を目指していく仕組みを指します。注目したいのは、「地域資源の保全を目指していく」という点です。地域資源を活用する観点はグリーンツーリズムと同様ですが、エコツーリズムはあくまで地域資源の保全に力点を置いています。
サステナブルツーリズム
国連世界観光機関(UNWTO)によると、サステナブルツーリズムとは、「訪問客、業界、環境および訪問客を受け入れるコミュニティーのニーズに対応しつつ、現在および将来の経済、社会、環境への影響を十分に考慮する観光」とのことです。
観光地に人が集まると、騒音やごみ問題、環境汚染など悪影響が出る場合もあります。そこで、サステナブルツーリズムは「持続可能な観光」を目指し、これらの課題を解決していくことを目指します。例えば、ドイツのベルヒスガーデン国立公園では自然に配慮し、自動車を使わない観光プロジェクトが進められています。
サステナブルツーリズムは都市部の観光地も含まれており、農山漁村が対象のグリーンツーリズムとは意味合いも範囲も異なります。
グリーンツーリズムの国内外の事例
グリーンツーリズムの国内外の事例についてご紹介します。
大分県宇佐市安心院町
大分県宇佐市の安心院町は、全国初で農村民泊に取り組んだことから、日本におけるグリーンツーリズム発祥の地とされています。取り組みはNPO法人「安心院町グリーンツーリズム研究会」が主体となって進められています。同会の設立は1996年ですが、前身のアグリツーリズム研究会は1992年に立ち上げられており、農山漁村余暇法が制定される前から活動しています。
同町のグリーンツーリズムで特筆すべきなのは、取り組みが行政を動かした点です。同町を訪れた観光客は一般の農家の自宅に宿泊し、農作業の手伝いや料理を一緒に作ります。しかし、取り組み当初の法律では、宿泊業を営む施設は客室が33平方メートル以上、宿泊客専用の台所が必要とされていました。観光客が増えるにつれ、「法律に抵触しているのではないか」との指摘が相次ぎましたが、2002年に大分県が独自の規制緩和を実施。その後、国も追従して規制を緩和するに至りました。
北海道長沼町
北海道長沼町はグリーンツーリズム特区に選ばれています。札幌から車で1時間以内で訪れることができるという立地を生かし、日帰りの農業体験ツアーを提供しています。教育旅行先として選ばれることも多く、「長沼町グリーン・ツーリズム運営協議会」によると2019年度には11の小中学校、計1207人の学生が訪れたといいます。
フランス
元々は欧州が発祥のグリーンツーリズム。なかでもフランスは、夏の休暇で多くの人々が農村に足を運びます。
フランスの民宿組合である「ジット・ドゥ・ラ・フランス」には5万軒以上が加盟しており、インターネットでの予約も受け付けています。乗馬や釣りといったアクティビティーも人気です。また、ガール県にあるキャンプ場「プチ・カマルグ」は人気スポットで、グリーンツーリズムは文化として人々の間で定着しています。
タイ・チェンマイ
タイのチェンマイは行政によってグリーンツーリズムが推進されています。ツアーにはチェンマイ山岳地帯の村で米やコーヒー豆の収穫体験や、現地の健康的なライフスタイルの体験などがあります。自然保護にも力を入れるなど、サステナブルツーリズムの側面も見られる事例です。
グリーンツーリズムの課題
地方の価値が見直されるなか、今後ますます注目度が高まることが予想されるグリーンツーリズムですが、いくつか課題もあります。
環境・文化破壊のリスクが伴う
グリーンツーリズムは今後の観光戦略においてカギを握るものですが、観光客が増えれば現地の環境が破壊されるリスクもあります。景観が損なわれるだけでなく、その土地独自の文化を守るよう意識しなければ文化も失われ、コアなファンが離れてしまうという可能性もあるでしょう。観光客増と環境・文化の保全の両輪を回していくことが重要です。
受け入れ人材の不足・高齢化
グリーンツーリズムは農山漁村が舞台となりますが、高齢化が進んでいる地域でもあります。結果、受け入れ人材は減少傾向にあり、次の担い手が不足している場合が多いでしょう。観光客の呼び込みとともに、農山漁村に住む魅力を発信するなど、移住定住促進策も同時に進めていく必要があります。
グリーンツーリズムにも戦略が必要
国でも推進されているグリーンツーリズム。取り組む自治体は多く、観光客を呼び込むためには戦略が重要となってきます。ターゲットとなる層はどこなのか、どのように自分たちの町を知ってもらい訪れてもらうのかを、細かく設定する必要があるでしょう。どのような観光でも、戦略立案は欠かせません。地域資源の魅力を伝えていくため、マーケティングの視点を持った上で取り組みましょう。
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