コンテンツをどのように制作し、どのように届けるのかを、テクノロジーの視座に立って考えるカンファレンス「INTELLIGENT CONTENT CONFERENCE」(ICC)が、3月20〜22日、米国ネバダ州ラスベガスで開かれた。いわば「コンテンツマーケティングの未来」を垣間見た今回のカンファレンス。本稿では、カンファレンスの概要及び、筆者が感じた業界の潮流についてレポートする。
テクノロジーの力でコンテンツを届ける
年々急速に複雑化するデジタルマーケティング戦略。チャネル、プラットフォーム、施策等を増やしすぎて、収拾がつかなくなっているケースも多い。そんな中、米国では大企業を中心に、AIを駆使してコンテンツを届ける、いわゆる「インテリジェント」なコンテンツ戦略の事例が見られるようになった。これはいわば、コンテンツマーケティングの未来形である。本カンファレンスでは、こうした戦略の事例やツール、メソッド等がセッションテーマの中心に据えられていた。
メインルームのほかに設けられたトラックは、「Tools & Technology」「Core Concepts」「Content Collaboration」「Future of Content」「Advanced Planning」の5つ。共通していたのは、戦略の立て方やツールの選定方法など、極めて具体的で突っ込んだ内容が多かった点だ。AIやチャットボットなどのシステムやツールを用いて、潜在顧客にコンテンツを届けるにはどうすべきか。日本では学ぶ機会が少ないだけに、刺激的な内容であった。
筆者は、昨年9月に米国オハイオ州クリーブランドで開催された「CONTENT MARKETING WORLD」(CMW)にも参加している。
CMWは、業界関係者なら知らない者はいないという巨大イベントで、参加者数はなんと4000人超。参加者の層も、エージェンシーにとどまらず、ブロガー、広告業界関係者、SEO業界関係者などなど、多岐にわたる。
一方のICCの参加者数は例年約400人程度。参加者の層は、コンテンツマーケティングのエージェンシー(代理店)、コンテンツマーケティングを実施している事業会社、ツールベンダーが中心で、より突っ込んだ内容の議論が展開される。
コンテンツマーケティングのエージェンシーである筆者としては、すぐさま業務に生かせる内容である点で、ICCの方がCMWよりもためになった。とはいえ毎年のトレンドをおさえる意味で、CMWの参加も欠かせない。
米国企業もコンテンツ戦略でテクノロジーの活用に苦しんでいる
今回のICCは3日間の日程で開催された。初日はワークショップが中心で、筆者も含め多くの参加者は2日目からの参加となる。2日目のキーノートスピーカーは、書籍「Killing Marketing」の共同著者でもあるRobert Rose氏。Content Marketing Institute(CMI)のChief Content Adviserも務める、コンテンツマーケティング界の重鎮だ。
Rose氏のプレゼンの要旨は以下の通りだ。コンテンツマーケティングを中心としたコンテンツ戦略において、テクノロジーを活用している(米国)企業は多くある。しかしながら、人材や実装、予算、ワークフローなどの部分で、もがき苦しんでいる、もしくはうまく活用できていない企業も一定数いるーー。
つまり、米国ではAIやチャットボットといった形での、テクノロジー活用を進めるべきとの認識は浸透しているものの、美しい成功事例はそれほど多くはない、というわけだ。したがって、導入ハードルの低いソフトウェアやツールの開発が待たれる。今回のカンファレンスは、理想的な戦略を語る「少しだけ先の未来」について語られていた、という言い方もできる、
今回、ブースも回ってみたが、いくつかコンテンツ戦略を担うソフトウェア開発会社が出展していた。しかしながら、クライアントに名を連ねるのは、世界的な大企業ばかりで、弊社がメインターゲットとしているB2Bの中小企業が導入することは、現実的でないと感じた。ただ、近い将来、安価なソフトウェアが開発されることが想像される。この分野は引き続きウォッチし続けたい。
ジャーナリズム業界からコンテンツマーケティング業界への流れ
ほかに、個人的に興味深かった点がある。すなわち、①B2Bテキストメッセージマーケティングの盛り上がり、②ジャーナリズム業界からコンテンツマーケティング業界の転職の流れーーの2点だ。
①については、ツールがいくつも開発されており、ユーザー登録までの戦略も確立されている。セッションで紹介されていた「SMS-MAGIC」は、セールスフォースと連携でき、興味深かった。日本で言えばLINE@がテキストメッセージマーケティングに近いかもしれないが、顧客管理も含めてより戦略的に実施できる点で、多少異なると感じた。
セッション終了後、参加者にテキストメッセージマーケティングについて尋ねたところ、「注目度が急速に高まっている」と話していた。活用にはローカライズが必要であろうが、今後日本でも研究が進む可能性がある。
②については、特化したセッションがあったわけではないが、ICC全体を通して「ジャーナリスト」という単語が、当たり前のように登場していた。昨年のCMWでは、「ジャーナリスト」という単語は私の印象に残っていない。
コンテンツマーケター不足は、日本だけでなく米国でも問題となっているようで、いかに人材を確保するかが焦点となる。数多くのスキルが必要なコンテンツマーケター。マーケターなどのプロフェッショナルを教育する以外に、人材確保は難しい。
CMIが発行する雑誌「Chief Content Officer」最新号では、「どのようにジャーナリストをトレーニングするか」「どのようにジャーナリストの採用活動を行えばよいのか」というテーマの特集が組まれている。おそらく、試行錯誤があったのであろう。ジャーナリズム業界出身者にマーケティングの知識を身につけてもらう。この形がベストであると、落ち着いたと想像される。
一方の日本では、マスコミ業界からコンテンツマーケティング業界に転職する例は、極めて少ない。そもそもマスコミ業界は待遇がいいし、転職したとしても、デジタルジャーナリズム業界か、大企業(広報担当)が選択される。そもそもコンテンツマーケティングのエージェンシーがまだ少ないこともあるが、筆者のように、新聞記者からコンテンツマーケティングのエージェンシーに転身したという話は、これまで聞いたことがない。
とはいえ、Googleのアルゴリズムがユーザー中心主義のもと、これほどまで頻繁に変更が加えられている以上、相手に真摯に向き合い、100%相手のことを考えるコンテンツマーケティング業界は、これから3年で今以上に伸びていく。したがって、ジャーナリズム業界への採用活動も、活発化していくことは、想像に難くない。
以上、駆け足ではあるが、ICCの大まかなレポートである。日本でコンテンツマーケの情報がほとんど手に入らない以上、今回のように米国に勉強に行くしかない。そこで仕入れた情報を参考にしつつ、あとは実践あるのみ。このことを改めて感じたカンファレンスであった。
※ICCの個別のセッションについては、本ブログにて今後執筆していく予定