カリフォルニア州・サンノゼで4月3〜5日、マーケティング・テクノロジー・ツールのカンファレンス「MarTech」が開催されている。本カファレンスに初めて参加した筆者が、3日の様子をレポートする。

MarTechは新たな時代に突入した

春のWESTと秋のEASTに分かれるMarTech。今回、サンノゼで開催された春の名物が、「Marketing Technology Landscape」の発表だ。これは「カオスマップ」とも呼ばれるもので、マーケティング・テクノロジー・ツールを提供するベンダーの数を示したもの。

2011年に150だったその数は、その後急速に増加。前回2018年には、6800に達した。今年はどうなるのか。参加者の誰もが注目する中、発表されたのは「7040」の数字だった。前年比3%増という、過去の成長速度からすれば、「ほぼ横ばい」と言えよう。

MarTechのプログラム責任者・Scott Brinker氏は、この数字について「MarTechのピークではない」と強調。あくまで「Marketing Technology Landscape」のピークだと主張した。

Brinker氏によると、数式にあてはめれば、現時数万ものツールが存在すると見込まれるという。そんな「カオス」状態の中で、適切なツールを選定することは、極めて困難だ。

配布されたポスターサイズのLandscapeは、もはや虫眼鏡でなければ企業名を確認できないほど膨大な数のツールが掲載されていた。これを参考に戦略を立てることは、あまり現実的でない。Landscapeは一定の役割を終えた。Brinker氏のこんな叫びにも聞こえた。Brinker氏のプレゼンからは、MarTechが新たな時代に突入したことを感じさせられた。

Marketing Stackの構築方法がカギに

Marketing Stack(マーケティングスタック、以下Stack)の構築が、徐々にではあるが、日本でも注目されるようになってきた。おさらいだが、Stackとは、カードゲームの「デッキ」のようなもの。戦略を立てた上で、どのようなツールが必要なのかをマッピングしていく。

ここで重要となってくるのが、適切な戦略の立案だ。ペルソナは誰か。ジャーニーマップはどう作ればいいのか。誰に、どのタイミングで、どんな情報を届けるべきなのか。考えることは山ほどある。この部分こそが、マーケティング成功への最大のポイントなのだ。戦略はある程度立てた。では、どうやってツールを選定していくべきか。どうやって管理していくべきか。

こうした課題感が何年も前からある米国では、研究が進んでいる。この日のセッションでも、ツールの選定方法や効果測定の方法について、活発に議論が交わされた。

ツールはあくまで手段の一つ。戦略をしっかりと立てて、その中に必要なミニツール等をマッピングしていく。そして、PDCAを高速で回し、Stackのチューニングを適宜行う。こうして初めて、プロフィットセンターへの道が開けたと言える。ただ、日本のマーケティング業界では、残念ながら手段と目的が逆になりがちだ。

Marketing Stackはローカライズする必要がある

この日のあるセッションでは、ツール選定、ツールクリーニング(解約)のプロセスを解説するものもあった。なんとなくツールの導入が決まり、導入する。一度導入すれば、解約は極めて難しくなる。日本企業の多くがこうした状態にある。これは企業規模の大小に関わらない。やはり最も大切なのは、誰にどうやって売るか、という戦略の部分だ。企業活動にドライブをかける意味でも、必要なツールはStackとして取り入れるべきだと考える。

加えて、Stackのローカライズも忘れてはならない。どんな企業にとっても有用なStackなど、存在しない。業種や企業規模、予算、企業立地などで、Stackを構成するツールは大きく異なる。

企業立地は、都道府県レベルだけでなく、国レベルでもあてはまる。世界的に見れば必ずしもメジャーとは言えない日本語。今回、出展ブースを周ったが、日本語対応しているツールはほとんど存在しなかった。我々はまず、自国の立ち位置を理解する必要があるのかもしれない。

米国のStackのノウハウは、その考え方の部分で、もちろん大いに参考になる。しかし、ローカライズし、Stackを構築するのは、基本的に事業会社(自社)でなければならない。場合によってはエージェンシーの力も借りるケースが出てくるかもしれないが、主導権を握るのは事業会社であるべきなのだ。

チームの「サイロ化」解消の切り札とは

この日のキーワードだと個人的に感じたのことが、もう一つある。チームの「サイロ化」の解消である。セールス、マーケティング、その他諸々。それぞれのチーム間には、大きな壁がある。しかし、特にBtoB企業において、チーム間の連携は不可欠だ。マーケティングチームがMAを駆使して獲得したリードは、セールスチームが引き継ぎ、インサイドセールスをかける。商材によっては、フィールドセールスチームがさらに引き継ぎ、リードを直接訪問。丁寧にクロージングまで持っていく。日本企業は概して、これらの連携がうまくいっていない。縄張り意識が強すぎるのだ。

サイロ化を解消するためには、CDPを根拠にした、ツール管理やプロジェクト管理などの機能を含んだプラットフォームが必要だ。今回のカンファレンスでは、プラットフォーム系のベンダーが目立った。中には「Stack管理プラットフォーム」なるものもあり、米国の研究が、良くも悪くも日本の何年も先を走っていることに驚きを隠せなかった。

ツールではなく顧客と向き合え

ここまで、メインカンファレンスの初日に感じたことを、一気に書き出してみた。ツールの進化はとどまるところを知らないが、忘れてはならないのが、企業が向き合うべきなのは、あくまで顧客であるという点だ。ここを忘れてしまうと、独善的なマーケティングとなってしまい、遅かれ早かれ企業イメージは低下する。

今回、この点に警鐘を鳴らすかのように、カスタマーエクスペリエンスをテーマにしたセッションが設定されていた。どこを向いて仕事をするかによって、企業の価値は決まる。マーケティングの本質の部分に改めて気付かされた一日であった。