これからのSEOについて学ぶセミナー「サイバーエージェント木村賢の2025年SEO始め in 熊本 〜SEO業界とブランディング業界の接近〜」(株式会社クマベイス主催)が1月15日、熊本市中央区の未来会議室で開かれた。本稿では、大規模サイトSEOの第一人者でサイバーエージェントSEOラボ研究室長の木村賢氏による基調講演の様子を中心にレポートしたい。
きっかけはシンガポールのカンファレンス「EVOLVE」だった
セミナーのきっかけは、2024年10月にシンガポールで開かれたSEOカンファレンス「EVOLVE」(SEO分析ツールベンダーAhrefs社主催)において、木村氏と筆者(クマベイス田中森士)が対面したことだった。
同カンファレンスはSEOの専門カンファレンスであったが、スピーカーの多くがブランディングやエンティティ(詳しくは後述)の重要性について言及。SEOが新たなステージに入ったことをうかがわせた。
カンファレンス後、木村氏と筆者がカンファレンスの感想をやり取りする中で、これからのSEOは特にブランディングやエンティティが重要となることを、日本においてもっと伝えていくべきではないかとの意見で一致。クマベイス社が主催・企画する形で今回のセミナー開催に至った。
コンテンツのベクトル化
木村氏が熊本で登壇するのは今回が初めて。木村氏のプレゼンテーションを聴講できる貴重な機会とあって、セミナーには熊本だけでなく福岡からも参加者が集まった。
木村氏は冒頭、SEOの歴史について紹介。スパムから始まり、その後テキストスパム、リンク(被リンク)スパムの時代を経て、コンテンツSEOが主流になっていった流れを端的に説明した。続いて、AIがSEOに与えた影響について解説。コンテンツ、ユーザー行動、クロールインデックス、E-E-A-T(詳しくは後述)、エンティティ(同前)の部分でインパクトが大きく、「SEOもAIを考慮せずにいられなくなっている」との認識を示した。
また木村氏は、SEOにおける重要な視点として「コンテンツのベクトル化」という概念を紹介。「ベクトルを形成する様々な子ベクトルの情報を充実させていくことで、このベクトルが足し算される」と説明した上で、「コンテンツを空間ベクトルとして考えることが大切だ」と強調した。
具体的には、例えば「節約」を親ベクトル、「節約 レシピ」のような組み合わせを子ベクトル(※)とする。この時、子ベクトルに該当するコンテンツをしっかり作っていくことで、「節約」の情報が充実し、親ベクトルの矢印がのびていく――。こういったイメージだという。
(※)例えば「節約 食費」「節約 方法」「節約 一人暮らし」「節約 光熱費」といった組み合わせが考えられる
この際、コンテンツはどのくらいの分量が必要なのだろうか。この点について木村氏は「(一般論として)ベクトルをのばすためには子ベクトルの情報を充実させていく必要があり、そうすると結果的にテキストの分量が大きくなる。トピックと関連した画像も必要だろう」との認識を示した。
Googleにエンティティを認識してもらうことの重要性
基調講演が後半に入ると、エンティティへと話題が移った。エンティティとは、実在や存在、本体といった意味の英単語。物質的な存在や人物、企業のほか、抽象概念が当てはまることもある。
SEOにおいては、特定のエンティティが何者であるのかをGoogleに伝える必要があるとされる。具体的には、サイテーション(citation=言及、引用の意)を引き出すことで「ブランド力がある」とGoogleに認識させる作業が求められる。木村氏によると、固有名詞が記述されている「メンション」、加えて「指名検索」がサイテーションに該当する。サイテーションを引き出すためには、「(ブランドなどが)この分野だと一番信頼できる」とユーザーに浸透させる必要がある。
Googleはエンティティとエンティティとの関係性をサイテーションから見ているという。例えば「サイバーエージェント」というエンティティと「ネット広告」というエンティティ、「サイバーエージェント」というエンティティと「ABEMA」というエンティティ――といったイメージだ。Googleがエンティティとエンティティの関係性を認識すると、エンティティ(≒キーワード)の組み合わせのクエリで順位が上がりやすくなるという。
これはE-E-A-T(※)が必要となるYMYL分野(※)でも同じだと木村氏は考えている。そのエンティティは医療専門家なのか。金融専門家なのか。法律専門家なのか。業界やカテゴリーで信頼できるのか。Googleはこれらをエンティティとエンティティの関わりの中で見ているという。
※Googleがウェブサイトの品質を評価する際に重視する指標で、「Experience(体験)」「Expertise(専門性)」「Authoritativeness(権威性)」「Trustworthiness(信頼性)」の頭文字を取ったもの
※「Your Money or Your Life」の略で、ユーザーのお金や人生に大きな影響を与える可能性がある分野。この分野の情報は特に正確さと信頼性が求められる
木村氏は被リンクの効果が限定的になってきているとした上で、「リンクよりも今はサイテーションの方が重要だ」と指摘。サイテーチョンが増えることでGoogleがエンティティを認識し、さらにはエンティティとエンティティとの関係性を理解して、結果的にオンライン上のプレゼンスやブランド力が高まっていく。この流れはブランドマーケティングそのものであり、被リンク獲得施策に勝る「これからのSEOである」として基調講演を締め括った。
SEOはごまかしの効かない新たなステージへ
SEOにおいて、サイト構造を整えたりコンテンツの質を高めたりすることは重要だ。これは今後も変わらないであろう。一方で、企業や商品・サービスのブランド力を高めていくことが、SEO業界でより重視されるようになってきた事実は刮目に値する。サイテーションを引き出し、オンライン上のプレゼンスやブランド力を高めていくことは、長期的なSEOといえる。ブランディングの世界では、「ブランド=信頼・信用」と表される。現実世界およびオンライン上において、いかに世の中からの信頼を獲得していくか――。木村氏のプレゼンテーションを聴講し、SEOはごまかしの効かない新たなステージに突入したのだと感じた。