米国で始まったとされる「コンテンツマーケティング」。その起源は米国の農機具メーカーが刊行したマガジン誌とも言われており、日本では2010年代半ばごろ一気に普及しました。ここでは、そんな古いようで新しいコンテンツマーケティングの基礎について、「初めて聞いた」「聞いたことはあるけど詳しくは分からない」といった方々へ向けて解説します。
コンテンツマーケティングの定義
そもそもコンテンツマーケティングとは何なのでしょうか? 筆者自身、初めて聞いたときは「コンテンツとマーケティングを合わせたもの?」「マーケティングもよく分からないし、ややこしいものかな……」と頭の中がハテナマークばかりでした。
コンテンツマーケティング関連記事を配信している米国の「Content Marketing Institute」では、コンテンツマーケティングについて以下のように定義しています。
「コンテンツマーケティングとは、顧客にとって価値があるコンテンツを一貫して配信し、コンテンツの受け手(顧客)を惹きつけ、関係を継続し、最終的には収益につながる行動を取ってもらうという戦略的なマーケティング手法」
つまり、コンテンツ(記事、動画、広告など)をターゲット顧客に対し適切なタイミングで配信することで、企業や商品、サービスのファンになってもらい、最後には購入してもらう一連の戦略のことです。
ここで重要となるのが「適切なタイミング」と「価値のあるコンテンツ」という2点。例えば、お気に入りのテレビドラマを見ているときのコマーシャルを思い浮かべてください。続きが気になるのに、興味のない商品のコマーシャルを流されても、一切頭に入ってきません。また、商品の存在や使い方を知らないときに「この商品の機能はこんなにすごいです」と紹介されても、興味がわかないでしょう。
テレビコマーシャルのように、広範囲に向けた一方的な宣伝方法は、情報収集の手段がテレビや新聞しかない時代においては、大きな効果を発揮しました。しかし、インターネットの発達後は世の中に流通する情報がどんどん増え、今や飽和状態となっています。結果、消費者は商品を購入するまでに自分が必要な情報「だけ」を調べるようになったのです。そんな顧客候補(リード)に、いかに適切なタイミングで価値のあるコンテンツを提供できるかが、現在重要となっています。
前述のContent Marketing Instituteの創始者・Joe Pulizzi氏は、自身の著書で「多くの企業がメディア企業へと姿を変えつつある」と語っています。「企業が新聞社、出版社、テレビ局のように記事や動画で情報を配信する」。コンテンツマーケティングを進める上では、一般的な事業会社であっても、メディアのようにふるまうことが求められるのです。
ペルソナとは
顧客が必要な情報は何か。このことを理解するためには、第一に顧客について考えることが必要です。ここで重要になるのが「ペルソナ設定」。ペルソナとは「商品を利用する代表的な顧客(人物)像を詳細に描いたもの」です。
ペルソナは、まるでその顧客が実在するかのように設定していきます。名前、年齢、性別、職業、居住地、家族構成、年収、趣味、生活スタイル……などを挙げていきます。実際に人物像となる写真を用意すると、よりリアルになります。商品やサービスをよく利用している顧客に、実際にインタビューするのもよいでしょう。ペルソナを設定したうえで、伝える情報の中身を考えましょう。
以下はペルソナの簡単な例です。商材にもよりますが、実際はより詳細なものが望ましいでしょう。
カスタマージャーニーマップとは
ペルソナを設定することで、ターゲットの特性、おおまかなコンテンツの内容が分かります。次に考えることは、「コンテンツを配信するタイミング」と「タイミングごとに適切な(顧客にとって価値のある)コンテンツは何か」です。
一般的に、顧客は商品やサービスについて認知し、興味を持ったところで情報収集、比較検討し購入に至ります。そこで考えるべきなのは各段階でのペルソナの「状況」「心理」「知りたがっていること」「情報を得るためにどのような行動を取るか」です。それぞれの段階でこの4つの要素について考えます。このように、商品購入に至るまでのペルソナの動きや態度変容について時系列にまとめたものを「カスタマージャーニーマップ」と呼びます。
ドラム式洗濯機の購入を考えているペルソナを例に考えてみましょう。
使っている縦型洗濯機が壊れてしまい、新しい洗濯機の購入を考えているペルソナがいるとします(状況)。この機会にドラム式の洗濯機の購入も考えているが、よく分からない(心理)。ドラム式になるとどんなメリットがあって、デメリットがあるのか知りたい(知りたがっていること)。とりあえずネットで検索し、ドラム式を使っている友人にも聞いてみる(行動)。
このようなペルソナのために、メーカー側は縦型とドラム式の機能を比べたコンテンツを用意すると良いかもしれません。
この場合は商品認知の段階ですが、ここから情報収集の段階に入ると、何を基準に選べばいいのかを考えるはずです。そこから各メーカーの商品を比較検討し、購入に至ります。各段階でのペルソナに寄り添ったコンテンツを配信することが、コンテンツマーケティングの成功のカギになります。
以下はドラム式洗濯機のカスタマージャーニーマップの例です。
認知 | 情報収集 | 比較検討 | 購入 | |
状況 | 縦型洗濯機が壊れて新しいものが欲しい | ドラム式洗濯機を検討 | メーカーをある程度しぼった | ドラム式のメリット、デメリット、機能も理解した上で購入機器も決定 |
心理 | ドラム式洗濯機の購入を考えているが、よく分からない | 選ぶ基準はどうすればいい? | どのメーカーにしょうか悩んでいる | 本当にこの商品でいいか?もし壊れてしまった時の保証は? |
知りたがっていること | ドラム式のメリット、デメリット | 選ぶ基準 | メーカーごとの機能の違い | 実際に動いている様子、保証内容 |
行動 | ネット検索、友人に聞く | ネット検索 | 各メーカーのホームページやカタログを見る | 動いている様子を動画で見る、保証内容を確認する |
コンテンツ | 縦型洗濯機とドラム式洗濯機の比較記事 | 具体的な機能と選ぶ基準を伝える記事 | 各メーカーの特徴を伝える記事 | 動いている様子の動画、保証についてホームページ上で説明 |
(※スマートフォンで閲覧される場合、端末を横向きにすると表が見やすくなります)
情報が読者に届く仕組み
コンテンツを制作し、自社ホームページに掲載しました。この時点で、情報は読者(もしくはペルソナ)に届くのでしょうか。コンテンツを確実に届けるためには、実はそれだけでは不十分。コンテンツを届ける方法を考える必要があります。
例えば、前述の縦型洗濯機とドラム式洗濯機の比較記事をホームページで公開したとしましょう。記事を拡散するために、SNS上で公開します。また、メールマガジンを配信しているのならば、公開した旨を記載して配信するのも良いでしょう。
洗濯機の例では難しいかもしれませんが、公開した情報が学術的で社会的に価値のある情報だったとすれば、マスメディアにプレスリリースで売り込むのも一つの手です。もし取材してもらえれば、費用をかけることなく広く宣伝できます。
コンテンツを作っても、それが届かなければ意味がありません。このように、情報を広く確実に届ける仕組みを作ることが大切です。
コンテンツマーケティングにおけるコンテンツの種類
ここで、コンテンツの種類についてご紹介します。ここで紹介する以外にも種類はありますが、主だったものを取り上げます。
- 記事
一つのトピックを取り上げ、解説します。 - メールマガジン
商材にもよりますが、一定の頻度で情報を配信します。継続して配信することが重要です。 - ブログ/オウンドメディア(自社メディア)
自社が運用するサイト等で公開します。記事は商品やサービスについてのトピックを取り上げ、ブログでは社員の人柄や自社風土といった軟らかめの話題を取り上げるなどして棲み分けするのも良いでしょう。 - ホワイトペーパー
業界やトレンド情報を冊子でまとめたものです。業界全体の動向を知りたがっている顧客にとって役立つ資料となります。 - 書籍
記事やメールマガジンのストックがある程度できたら、それをまとめて電子書籍化するのもおすすめです。 - 動画
撮影した動画を動画共有サービス「YouTube」などで公開します。商品についてより詳細に伝えるために動画を利用したほうが良い場合もあります。 - ラジオ
ラジオ配信サービス「Podcast」などでラジオ番組を配信します。聴き手からお便りを募集してコミュニケーションを図れることから、国内でも取り組む企業が増加。企業へのファン化を進める効果が期待できます。 - イベント
「コンテンツ」と聞くと記事や動画などを思い浮かべる方も多いと思いますが、セミナーなどのイベントもコンテンツの一つです。実際に会場を用意して対面で行うオンラインイベントと、インターネットを使って開催するオフラインイベントがあります。
コンテンツは資産となる
コンテンツの最大の強みは、資産(アセット)になる点です。どんなに大きな費用をかけて広告を配信しても、その効果は配信時だけに限られてしまいます。しかし、記事や動画などのコンテンツは配信以後も残り、積み重なっていきます。
前述のように、ストックをまとめて書籍化するといった展開方法もあります。情報の資産を積み重ねることで、顧客から「その企業に聞けば必要な情報は得られる」という安心感、信頼感を得ることが理想です。
情報を配信し、それが資産となり、業界でも随一の信頼を得ることができる。コンテンツマーケティングは、企業を業界のカテゴリーリーダーにする力を秘めているのです。