それぞれの考えを訴える登壇者ら=2016年9月19日、東京都武蔵野市のアトレ吉祥寺

9月16日から30日にかけて、東京都武蔵野市の商業施設「アトレ吉祥寺」で開かれた、熊本の今を知るイベント「Do you know 熊本?」。「トークセッションDay1」(19日)では、独自の方法で被災地の情報発信を続ける3人を招き、「東京にいながらにして、どのように被災地の情報にアクセスすればよいのか」をテーマにトークを繰り広げた。

「熊本の情報が一切入ってこない」

「熊本のことがすごく気になるんだけど、情報が一切入ってこない」
このコンテンツを思いついたきっかけは、福岡出身で東京在住の知人男性が放った一言だった。この男性は、テレビ業界の関係者。情報への感度は高い方だ。しかしながら、そんな彼でさえ熊本の情報を得られていないことに、大きなショックを受けた。
熊本では今も連日、熊本地震関連のニュースであふれている。しかしながら、東京は日々大量のニュースが集まる場所。特に今年は大きなニュースが多かった。残念ながら、マスメディアは熊本のニュースを選択していないようだった。
熊本に関心を寄せてくれている人は、東京にも一定数いるはず。そうした人たちはどのようにして情報を得ることができるのか。一人で考えても分からないと思い、このテーマでトークセッションを行うことにした。

トークセッションの会場脇では、熊本県への義援金が集められた=2016年9月19日、東京都武蔵野市のアトレ吉祥寺

独自の情報発信を続ける3人

登壇をお願いしたのは、地元メディア「ジモコロ」編集長の徳谷柿次郎さん、「タウン情報クマモト(タンクマ)」前副編集長の松林菜摘さん、フィルムディレクターの田村祥宏さんの3人。熊本の現状を肌で感じており、かつ情報発信を続けている面々だ。この3人ならアイデアが生まれるだろうとの確信があった。

ジモコロ編集長の徳谷柿次郎さん=2016年9月19日、東京都武蔵野市のアトレ吉祥寺

徳谷さんは、お金を落として情報発信をする目的で、ライターやブロガー、編集者100人が黒川温泉に宿泊するという企画「KUROKAWA熊本震災支援イベント」の主催者。

http://kurokawawonderland.jp/jimocoro/

同企画は私も夜の懇親会のみ参加したのだが、東京などから100人が集まり酒を酌み変わす光景は圧巻だった。

タウン情報クマモト前編集長の松林菜摘さん(右)=2016年9月19日、東京都武蔵野市のアトレ吉祥寺

松林さんは、熊本地震の発生時にタンクマの副編集長で、「復興号」の取材に奔走した人物。1979年創刊の同誌は、熊本の飲食店やイベントの情報を細かく掲載しており、地元での知名度は抜群。それだけに、急遽内容を差し替えて発行した「復興号」は県民を大きく勇気付けた。
2016年6月号|月刊タウン情報クマモト(タンクマ)

【熊本地震】「元気です!熊本」タウン誌、27日に急遽”復興号”…笑顔届けたい

フィルムディレクターの田村祥宏さん=2016年9月19日、東京都武蔵野市のアトレ吉祥寺

 

田村さんは、黒川温泉をはじめとした黒川の魅力を伝えるプロジェクト「KUROKAWA WONDERLAND」で映像制作を担当。地震前から黒川温泉とは深いつながりがあったたことから、「KUROKAWA熊本震災支援イベント」の記録映像の撮影も担当した。


田村さんが制作した「KUROKAWA WONDERLAND」


田村さんが制作した「KUROKAWA熊本震災支援イベント」の記録映像

「ストーリーを持たせないと、興味を持たれない時代」

この日は、それぞれの自己紹介の後、まず「熊本の現状」をテーマにトーク。
「観光地では風評被害が深刻」「地元の人は前を向いてがんばっている」など、地元の松林さんを中心に、3人が実際に感じたことに基づいて説明した。

「地元の人は前を向いてがんばっている」と訴える松林さん(右から3人目)=2016年9月19日、東京都武蔵野市のアトレ吉祥寺

続いて、「どのように情報を得ればよいのか」のテーマに移ると、3人は言葉を選びながらも、それぞれの考えについて発表。
徳谷さんは「熊本の人と何らかの繋がりができれば、関心を持ち続けられる。繋がりは本当に何でもいい。現地に行って、道行くおじさんに話しかけるのでもいい」とした上で、「具体的なアクションを起こせる人はまれだから、そういった(現地の人と触れ合う方法についての)ワークショップを開くのはどうか」と提案した。

「繋がりができれば関心を持ち続けられる」と話す徳谷さん=2016年9月19日、東京都武蔵野市のアトレ吉祥寺
田村さんは、「地震が起きて、その後熊本がどうなったのかを伝えるべき。ストーリーを持たせないと、興味を持たれない時代だ」と、伝える側が持つべき視点について指摘。その上で、熊本と東京の両方の人が共同プロジェクトを立ち上げることで、「自分ゴト化」でき、長期の関係構築が可能となるとアドバイスした。

「ストーリーがないと興味を持たれない」とアドバイスする田村さん(右)=2016年9月19日、東京都武蔵野市のアトレ吉祥寺

「被災地に行くことで自分の『ものさし』ができる」

印象に残ったのが、徳谷さんの「いろんな被災地に行くことで、自分の中での『ものさし』ができる」という発言だ。勝手に解釈すると、「いろんな被災地に行くことで、自分と被災地との関わり方を自ら設定できるようになる」といったところか。
無理をして情報を得る必要など何もない。被災地に足を運ぶことで、「こういう関わり方をしよう」と自ら設定する。そうすれば、その時できた関係性により、自然と情報が入ってくる。

この日のために用意された、熊本の現状を数字とデザインで伝えるインフォグラフィック=2016年9月19日、東京都武蔵野市のアトレ吉祥寺
世の中は需要と供給で成り立っている。地球上のすべての人に熊本の情報を届けるなんて実現不可能。「積極的に関心を示す層」「潜在的に関心がある層」に情報を届けることを目指すべきなのだ。「情報の押し売り」にならないようにしなければ、と心に刻んだ。

手つかずの状態で残る崩壊した家屋=2016年8月、熊本県益城町

がれきが片付けられ、更地になった場所も目立つようになってきた=2016年8月、熊本県益城町

これから必要なことは、東京の人が熊本に関心を寄せてくれる、もしくは情報を簡単に得ることができるような仕掛けづくり。これを続けることで、「積極的に関心を示す層」「潜在的に関心がある層」に情報が届く可能性が高まるであろう。

トークセッション終了後、登壇者らで記念撮影=2016年9月19日、東京都武蔵野市のアトレ吉祥寺

Facebookイベントページより引用

□徳谷柿次郎氏
株式会社バーグハンバーグバーグメディア事業部 部長 / 地元メディア「ジモコロ」編集長
1982年生まれ。大阪府出身。株式会社バーグハンバーグバーグメディア事業部長。ライター編集者WEBディレクターという謎のクッションを経て、現在は「どこでも地元メディア ジモコロ」の編集長として全国47都道府県を飛び回っている。常に「一石 五鳥」にならないかを考えるのが好き。趣味は「日本語ラップ」「コーヒー」「民俗学」など。

□松林菜摘氏
「タウン情報クマモト」前副編集長
1983年生まれ、熊本県出身。地元の大学を卒業後、地元タウン情報誌「タウン情報クマモト(タンクマ)」を発行する(有)ウルトラハウスに就職。編集部で取材を担当した後、編集長不在の副編集長として全体のディレクションを担当した。現在は、阿蘇エリアを担当し、企画・広告に携わっている。趣味は登山・自然あそびと、最近はじめたギター。

□田村祥宏氏
株式会社イグジットフィルム・代表取締役 / フィルムディレクター
映像制作や映像を中心とした、メディアミックス型コンテンツのディレクションを主に手がける。映画的な演出や、個人としての作家性を大切にしながら、ドキュメンタリーの現場で培った技術により、映像制作の全ての行程をワンストップで提供している。2015年制作の”KUROKAWA WONDERLAND”や2016年制作の”RUN TOMORROW”では、地域の人々や認知症の人々らとクリエイターたちが手を取り合って作品を制作。多数の海外アワードを獲得した。