Content Marketing World(CMWorld)2018の2日目からは、いよいよメインカンファレンスだ。個別のセッションについての細かい解説は、別の機会に譲るとして、トレンドや全体の印象等について共有しておきたい。

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コンテンツマーケターは「TRUST」を意識せよ

メインカンファレンス冒頭の、主催者側によるプレゼンは、その年の潮流やメッセージを読み取る上で毎年見逃せないコンテンツとなっている。今年はCMWorldを主催するContent Marketing Institute(CMI)のRobert Rose氏が登壇。多くのオウンドメディアはオーディエンスの獲得に成功しているとした上で、今後は「TRUST」を意識すべきだと訴えた。

筆者はコンテンツマーケティングを以下のように定義している。

「コンテンツマーケティングとは、オウンドメディアを柱に、ペルソナにとって有益な情報を、戦略にもとづいた継続的かつ正しい方法で配信し、(潜在)顧客との信頼関係を構築。最終的に、コンバージョン(目的)につなげるマーケティング手法のこと」

この観点に立った時、Rovert氏の今回の主張は、そもそも当たり前のことのように聞こえる。しかしながら、昨年出版された書籍「Killing Marketing」(Joe Pulizzi, Robert Rose著)」から始まった、昨今の「オーディエンス」獲得の流れによって、そもそも行動を喚起することに必須である「TRUST」が軽視されているのではないか。あくまで筆者の主観ではあるが、CMI側のこうした危機感が伝わってきた。

公共的信頼の獲得が収益を生み出す

では、その「TRUST」を獲得するために、何が必要なのか。Rose氏は、Googleの検索エンジンやSNSのアルゴリズムが頻繁に変更され、こうしたチャネルを用いてコンテンツを適切に届けることが難しくなっている状況を念頭に、「魅力あるコンテンツ(ENGAGING CONTENT)こそが重要で、そのために才能ある人材(TALENT)とテクノロジーの活用が必要だ」と指摘。これらをクリアすることで、公共的信頼(TRUST IN PUBLIC)が獲得でき、結果、コンテンツマーケティングが収益を生み出す拠点となる(CONTENT MARKETING AS A REVENUE CENTER)と強調した。

個人的にはこれらは極めて興味深い流れだと感じた。公共的信頼とは、これまでの常識で言えば、テレビや新聞の専売特許である。つまり、これはジャーナリズムのノウハウや視点をコンテンツマーケティングに取り入れろ、というメッセージでもあるのだ。実際、ジャーナリズム業界から、コンテンツマーケティング業界に人材が流れており、「ジャーナリストをどのように採用するか」「ジャーナリストをどうコンテンツマーケターとして育成するか」といったコンテンツは、CMIのメディアも含めて、最近ネット上でよく目にする。ジャーナリズム業界とコンテンツマーケティング業界の融合は、今年のトレンドの一つであると言って、間違いないであろう。

ワークライフバランスでクリエイティビティーを保つ

Rovert氏のプレゼン後は、9カ月間の長期休暇を取っていた、コンテンツマーケティング界の重鎮、Joe Pulizzi氏がキーノートスピーカーとして登壇。「UNCOVERING THE SECRETS TO LIFE AND MARKETING(WHILE LIVING IN CLEVELAND)」と題し、長期休暇中に感じた、マーケターのワークライフバランスの重要性に関しプレゼンした。

長期休暇中、家族や親戚と過ごす時間以外は、ひたすら本を読み、瞑想し続けたPulizzi氏。結果、様々なものを手放し、頭を知識を入れる前のまっさらな状態にすること(Tabula Rasa)が、マーケターにとって精神衛生上良いということに気づいた。これはまさに、米国の西海岸を中心に、注目を集める「マインドフルネス」を実践しているといえる。

個人的な話で恐縮だが、実は筆者も、普段からランニンングや瞑想を通し、定期的に「マインドフル」な状態になるよう心がけている。そうすることで、身体性が高まり、アイデアが自然と湧き出る、クリエイティブな状態が保たれる。結果、仕事の能率も上がり、精神も安定。ワークライフバランスが実現するというのは、よく理解できる。先日、筆者が講師を務めたライティング講座でも、この部分は強調した部分だ。それをまさか世界的カンファレンスで聞くことになるとは、これも時代の流れなのだろうか。

「緊張感」があればオーディエンスは視聴を続ける

続いてのキーノートスピーカーは、元敏腕テレビプロデューサーのAndrew Davis氏。スライドにも登場する「ミステリーボックス」と書かれた段ボール箱を持って登場したり、パワフルで大きなジェスチャーを示したりと、観客を虜にしたプレゼンは、この日一番の盛り上がりを見せた。

Davis氏が強調したのが、オーディエンスはとにかく時間がないという点。ただし、興味を持続させることで、コンテンツを視聴してくれる時間を生み出すことができるのだという。では、具体的にどうすればよいのか。

Davis氏は、スイカにゴムバンドを1つずつ次々とくくりつけ、破裂するまでの約40分間を追いかけた動画を紹介。この動画のように、「緊張」を意味する「Tension」があれば、オーディエンスは視聴し続けると指摘した。

ほかにも、「Mystery Unboxing」と書かれた段ボール箱が、ネット通販で大量に出品されており、その購入レポートをYoutubeにアップすることが流行っているという現象を紹介。これについても、何が入っているのだろうという緊張感が、人々の関心を喚起したということだ。「緊張感」を意識してコンテンツを制作したことがなかった筆者にとって、このプレゼンは非常に有益なものであった。

ビジュアルストーリーテリングの注目度は高い

キーノート後は、トラックごとに部屋に分かれてプレゼンが展開される。筆者は、「TRUST」を獲得する意味では、ストーリーテリングが重要だと考え、「ビジュアルストーリーテリング」関係のプレゼンを中心に回ることにした。一口に「ビジュアル」と言っても、インフォグラフィック、動画、(ビジュアルを生かした)インタラクティブコンテンツなど、多種多様。筆者はそれぞれ一つずつプレゼンを聴講したが、ブランドの歴史を掘り起こす、課題を解決する、ペルソナを意識する、などの点で、基本的な考え方は共通していた。

ビジュアルストーリーテリングの部屋は、数百人が入るほど大きく、しかも一日中賑わっていた。昨年よりも注目度は高いように感じる。やはり、GDPRやアドブロックのインパクトは大きかった。オーディエンスに選んでもらえる、関係性を構築する、行動を喚起する。これらを満たすものが、ストーリーテリングを施したコンテンツというわけだ。8月15日にシンガポールで開かれたカンファレンス「Content Marketing Sumitt Asia」でも、ストーリーテリングに関するセッションは多かったが、こうしたトレンドはしばらく続くのかもしれない。

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