Content Marketing World(CMWorld)2018の3日目。この日の最終キーノートには、例年有名人が登壇(今年は人気女優で脚本家のTina Fay氏)するため、カンファレンスの裾野を広げる意味合いもある。もちろん、他のセッションも充実しているため、有意義な1日であることには間違いないのだが、自分の中でのテーマや仮説に基づいて回らなければ、消化不良となる恐れもある(これはSNS上の情報収集でも同じ)。筆者は、Rovert Rose氏が掲げた今年のテーマ「TRUST」を意識し、「ストーリーテリング」「コンテンツ制作」「ジャーナリズム」のキーワードで回ることにした。

消費されるコンテンツから意味のあるコンテンツへ

冒頭のキーノートでは、「T Brand Studio」のマネージングディレクター・Kathleen Diamantakis氏がスピーカーを務めた。

「New York Times」のネイティブアド制作部門である、この「T Brand Studio」。ネイティブアドの掲載先は「New York Times」とは別ページで、はっきりと区別されている。掲載されている記事のクオリティーは新聞と遜色なく、かつストーリーとビジュアルも美しい。記事の最後には「もっと読む」ボタンがあり、クライアント企業のWebサイト等へランディングする、という仕組みだ。少々脱線したが、この手法は日本の新聞業界も大いに参考になると感じる。

Diamantakis氏のプレゼンのタイトルは、「Making Content Mean Something」。邦訳すると、「何か意味のあるコンテンツを作る」といったところだろう。これまでは、誰もが楽しみや心地よさ、つまり「幸せ」(Happiness)を求め、ネットサーフィンをしていた(情報を消費していた)。しかし、これからはそうではない。近い将来、人々は「意味のある」(Meaning)情報(コンテンツ)を求めるようになる、という主張だ。

「理解」「目的」「価値」を意識したコンテンツ制作を

  • 楽しさ、喜び→自己啓発
  • 心地よさ→インスピレーション
  • 気楽さ→全体とつながること
  • 現在→過去、現在、未来
  • 具体的には、上記のように、目的が変化していくのだという。前日のJoe Pulizzi氏のプレゼンにも通じるが、人間の深い部分を理解した上でのコンテンツ制作やマーケティングというものが、今後注目されていくのだろう。

    では、意味のあるコンテンツを作る際に、どういった点に留意すればよいのか。Diamantakis氏は、(読者の立場での)「理解」「目的」「価値」を同時に意識しながらコンテンツを作るべきだと強調した。これらを意識してコンテンツ制作にあたっている例が、現在、一体どれほど存在するのだろうか。本当に近い将来(おそらく2年以内)、消費されるコンテンツから意味のあるコンテンツへと、世界中のニーズが変化していくのだろう。ストーリーテリングが注目を集めているのも、こうした予測、危機感からのものだと感覚的に理解できた。

    If we’re not careful, we’re going to end up with an epidemic of meaninglessness.

    (我々が注意深くなければ、結局は意味のない流行に終わってしまう)

    世界のトップランナーの訴えは、強く印象に残った。

    ストーリーテリングを施したコンテンツは滞在時間が5倍超

    この日も、前日に引き続き、ストーリーテリングのセッションが賑わいを見せた。これとは別に、コンテンツ制作やライティングを扱うトラックもあり、ストーリーテリングも含めたコンテンツ制作関連のセッションは、昨年よりも大幅に多い印象だ。

    その中の一つ、クリーブランド連邦準備銀行でライターを務める、Michelle Park Lazette氏のセッションに出席した。Lazette氏は、8年間で9つの受賞経験がある、元敏腕ジャーナリスト。経験を生かしたストーリーテリングの手法には定評があり、CMWorldでもおなじみのスピーカーだ。

    プレゼンタイトルは、「マーケターのように書くのをやめ、ジャーナリストのようにストーリーテリングせよ」。まさに、今年の象徴的なセッションの一つであった。

    Lazette氏は、ストーリーテリングを施したコンテンツのページは、他のページよりも5倍以上滞在時間が長くなると指摘。コンテンツマーケティングにおいて、極めて効果的な手法であるとした上で、ストーリーテリングにジャーナリズムの視点を取り入れるべきだと再三にわたって強調した。

    ストーリーテリングは「伝える」のではなく「見せる」

    つつましく正直にいる。そして自らが知らないことを認める。産業について学ぶ。十分すぎるほどファクトチェックする。「伝える」(Tell)のではなく「見せる」(Show)。

    Lazette氏は、上記の心構えを持つことで、本カンファレンスのキーワードでもある「TRUST」を獲得できると指摘。これは、筆者が新聞記者時代に学んだことと一致する。

    Lazette氏は続いて、自らに問いかけることの重要性を強調。なぜこの事柄(問題)を取り扱うのか。なぜこのストーリーを「今」伝えるのか。事例はあるのか。自らに問いかけることが、ストーリーテリングの第一歩だとした。

    ほかにも、オリジナルストーリーを伝える、単語・数字・専門事例を用いる、ストーリーを通して読者に「金貨」を与え、没頭させるなど、様々なTipsを披露したLazette氏。Twitterで追いかけてみても、参加者らの満足度は高かったようだ。

    冒頭のキーノートで、ストーリーテリングの必要性は十分に理解できた。そして、このセッションや、前日のセッションで、具体的な手法が見えた。「ストーリーテリング」という観点においては、大変意義あるものであった。

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