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米国シカゴのウェブデザイン・開発会社「Orbit Media Studio」の共同創業者・アンディ・クレストディナ氏が2020年5月13日(日本時間)、「Googleアナリティクスの基礎知識:データドリブンなマーケターであれ」と題しWEBセミナー(ウェビナー)で講演した。解析はあくまで結果を出すための手段であることを再確認できた、セミナーの内容を紹介したい。
コンテンツマーケティング業界のトップランナー
クレストディナ氏は、コンテンツマーケティング業界のトップを走るマーケターだ。著書「Content Chemistry」においては、コンテンツマーケティングの要素を元素に見立てた「周期表」を発表。感覚ではなくあくまでコンテンツマーケティングを科学するという、研究者のようなスタンスが、業界で指示を集めている。
筆者はContent Marketing Worldをはじめとする海外カンファレンスにおいて、クレストディナ氏のプレゼンを何度も聴講している。Googleアナリティクスを活用したWEBページ改善方法など、誰でもすぐに実践できるテクニックを紹介しているのが毎回印象的だ。とことんユーザー目線を追及したプレゼンは、満席となることも多い。
マーケティングファネルを意識せよ
ひとたびGoogleアナリティクスを開くと、ついつい様々な項目をクリックして数字を見続け、「沼」にハマってしまうという経験は多くの人があるのではないだろうか。もちろん、筆者もその一人だ。
こうした状況を念頭に、クレストディナ氏は「Googleアナリティクスを見る際はマーケティングファネルを意識せよ」と訴えた。Googleアナリティクスで言うと、TOFU(Top of Funnel)は「集客」、MOFU(Middle of Funnel)は「行動」、BOFU(Bottom of Funnel)は「コンバージョン」が当てはまる。
トラフィックがどんどんファネル下に降りていき、最終的にコンバージョンを獲得するまでの流れを意識することが求められる。素晴らしい結果が出るまで解析と改善を繰り返すという地道な作業だが、この全体像を意識するだけで解析は効率的なものになるであろう。
それって本当にレベニュー?
一口にコンバージョンと言っても、様々な種類がある。何をコンバージョンにすべきか、業種や商材、検討期間の長さなどによって変わってくるであろう。クレストディナ氏によると、マーケティングにおいてコンバージョンとして設定する項目には、以下のようなものが挙げられるという。
- リード(見込み顧客)
- 顧客
- イベント参加申し込み
- ニューズレターへの登録(サブスクライブ=Subscribe)
- ダウンロード(ガイド、ebook、ホワイトペーパー)
- ウェビナー参加申し込み
- フォロワー/ファン
- 会員登録
- レビュワー
- 求職者
ここまでは想像がつくが、クレストディナ氏はこれらのコンバージョンが、果たして「レベニュー」と呼べるのかを考えるべきだと指摘する。例えば「リード(見込み顧客)」「顧客」「イベント参加申し込み」はレベニュー(売り上げ)に直接的に貢献している。
一方、「ニューズレターへの登録」「ダウンロード」「ウェビナー参加申し込み」「フォロワー/ファン」「会員登録」「レビュワー」「求職者」は、レベニューに直接的に貢献してはいないとクレストディナ氏は強調する。
もちろん、これらはコンテンツを届けられるという意味では重要だ。コンテンツを届け続けることで信頼を獲得していき、最終的にはレベニューにつながる可能性のあるものだ。しかしながら、解析する際はレベニューと呼べるコンバージョンとは分けて考える必要がある点は、コンテンツの価値やレベニューへの貢献度を測る上で、欠かせない(「イベント申し込み」はレベニューとコンテンツの双方が該当するという)。
サンキューページをあなどるなかれ
「お問い合わせ」の仕組みをつくっておくことは、WEB構築の基本だ。サイト内に「お問い合わせは(info@●●●●●)までメールにてお願い致します」などとテキストで記載しているケースがあるが、クレストディナ氏はこれを推奨しない。理由としては、Googleアナリティクスで追いかけられないこと、スパムメールが増えることなどを挙げる。
コンタクトフォームの場合、Googleアナリティクスで計測可能で、スパムメールもメールアドレスを表示するより確実に減る。しかし、実は最大のポイントはここではない。コンタクトフォームだと「サンキューページ」を表示できることが重要なのだ。
コンタクトフォームからお問い合わせすると、送信後に「お問い合わせありがとうございます」などと表示されることがある。これを「サンキューメール」と呼び、米国のコンテンツマーケティング業界では活用方法の研究が進んでいる。
クレストディナ氏は、単に「ありがとうございました」とだけ表示するのではなく、同じ画面にコンバージョンの導線をはることが重要だと訴える。「Orbit Media Studio」のサイトでは、サンキューページにニューズレターへの登録(サブスクライブ)フォームを埋め込んでいるが、1年間で277件の登録があったという。これは、コンタクトフォーム送信後に、送信者のメールボックスに届く「サンキューメール」でも有効だ。ニューズレターの登録後のサンキューメールは、開封率が高いという研究結果がある。つまり、サンキューメール内にいきなりコンバージョンへの導線をはることも有効だと、メールマーケティング業界では伝わる。
効果的なトップページとは?
解析からは少々離れるが、セミナーの最後にクレストディナ氏は「効果的なトップページにするためのコツ」を紹介した。これらはもちろん、クレストディナ氏の豊富な経験に基づくものである。
- 偉大なるCTAを配置する
- 強いお客様の声を配置する
- 最も強いコンテンツへの導線をはる
- 他のWEBサイトへのリンクを削除する
- 動画や人々を出すことで個性を生む
企業のWEBサイトの場合、コンバージョンのための導線設計が求められるが、クレストディナ氏はトップページこそ最もクリックしてほしいCTAを配置すべきだと指摘する。また、商品やサービスを売りたい場合、お客様の声も配置することが重要だ。
最も支持されているコンテンツをトップページに置くことも、コンバージョン数を稼ぐ上で不可欠という。先述のマーケティングファネルを思い出してほしいが、トラフィックからコンバージョンにかけて、数字はどんどん減っていく。もし、コンバージョンへの貢献度が極めて高いコンテンツがあれば、トップページにも導線をはることで、コンバージョン数は増えることが予想できる。
トップページに関連サイトのバナーをはっているケースは散見されるが、クレストディナ氏はこれを推奨しない。一度ランディングしてもらったら、極力そこから離脱させない仕組みとすべきなのだという。
動画、人々(の顔)を打ち出すことは、個性を出す意味で重要だ。確かに、コーポレートサイトはどれも似たデザインであり、あまり印象に残らない。デザインの工夫は多少なりとも施すべきなのだろう。
解析はあくまでマーケティングの手段
先述のトップページデザインのアドバイスは、クレストディナ氏は長年解析する中で導き出した、現時点での結論だ。このことからも、解析はあくまでコンバージョンを獲得していくための手段であることがよく分かる。
オウンドメディアを閲覧すると、自社業界への「愛」が感じられる、素晴らしいコンテンツと巡り合うことがある。このようにエンゲージメントを高めるコンテンツは絶対に必要なものだが、何事もバランスだ。解析を怠らず、コンバージョンやレベニューに貢献しているコンテンツを見つけ出し、導線を改善する。PDCAサイクルを回し、結果につなげることこそが、解析の役割だ。解析はあくまで「マーケティング」のための一つの手段。私たちはこのことを忘れてはならない。