ポストコロナ時代に威力を発揮する営業手法・インサイドセールスが注目されています。新型コロナウイルスの感染拡大で訪問営業ができなかった企業は、代替手段としてインサイドセールスを取り入れはじめたケースも多いのではないでしょうか。しかしながらインサイドセールスは「魔法の杖」ではありません。しっかりと注意点を押さえたうえで取り組む必要があります。今回は、インサイドセールス運用の注意点について、導入時、メンバーの管理、リードの管理の3つの観点からご紹介します。

インサイドセールス導入時の注意点

まずは導入時のポイントから見ていきましょう。長く企業で根付いてきた営業手法の変革には、厳しい道のりが待っていることと思います。導入担当者はこれからご紹介する3つのポイントをしっかりと押さえてください。

  • 定着に時間が必要な場合がある
  • 社内説得もハードルのひとつ
  • 導入までの道のりが長い

定着に時間が必要な場合がある

インサイドセールスを導入したとしても、とにかく最初は社内からの信用が得られません。これはできるだけ早く成果を出して、経営層から理解を得てもらうことで自然と定着していきます。

インサイドセールスの始まったアメリカと異なり、日本の営業組織には独特のルールや暗黙の了解があります。担当者が無理に導入を推し進めると、社内で軋轢が生じる可能性があるため、各社にあった方法で慎重に進めるのがよいでしょう。

また、導入しても重要顧客の担当を任せてもらえないというケースをよく耳にします。新規開拓の際、一般的にリストを作成しますが、重要顧客はフィールドセールス、そうでない顧客をインサイドセールスにまわすというケースが多いようです。重要でない顧客をインサイドセールスにまわして、MAなどを利用しフォローしていくのは正しいことかもしれませんが、重要としている顧客もインサイドセールスとフィールドセールスが分担して対応するのが望ましいでしょう。

社内説得もハードルのひとつ

社内にインサイドセールスを導入しようと考えている方にとって、社内への導入の説得、説明は大きな関門です。その際、インサイドセールスのメリットのみを訴求しつづけるのではなく、「なぜ現状のままではいけないのか」についても理解し、説明するようにするとより理解されやすくなるでしょう。

少子高齢化や職種の多様化により、営業部のリソースが減っています。にもかかわらず、売り上げを伸ばす方法は営業先を増やすか効率化するかの2択になります。

一般的に、これまでの営業手法は効率化を求めておらず、親切さや丁寧さで信頼を得ることが目的でした。しかしながら、このままでは営業人口が減り、売り上げもそれに比例して下がっていくことになります。この事実を直視して、しっかりと対策を始めている日本企業がどれだけ存在しているのでしょうか。

また、私のフィールドセールス時代の経験ですが、「営業が効率化できておらず残業が多い」と社内で訴えたとしても、組織としてすぐに営業システムを変えようという考えに行き着くケースはあまりありませんでした。したがって、社内説得の際には、判断する経営層がより実態をリアルに理解できるように、「なぜ必要なのか」と「それによるメリット」を分けて明確にする必要があると考えます。

導入までの道のりが長い

インサイドセールスをまだ導入していない企業で導入しようとする場合、トップダウンでなければ推進はかなり難しいでしょう。現在インサイドセールスが活躍している大企業でも、導入には多くの苦労があったようです。

導入までの道のりについていろいろな事例や方法を見ていると、はじめは地道な草の根運動で社内に「インサイドセールスの営業」をしていき、最終的にはトップダウンというケースが多くあります。

また、インサイドセールスという言葉がここ数年で大きく広まり、「働き方改革」の一環で上層部からぽろっと「インサイドセールス」というワードが出ることも多くなったようです。社内の改革を応援する姿勢が強い中で一気に進めたほうが、導入までスムーズに進められるでしょう。

企業によって営業スタイルやインサイドセールスの役割、位置づけは様々です。いずれにしても、社内が納得したうえで、組織に自然な形でインサイドセールスチームが編成され、大活躍できるチームをつくりたいですね。

インサイドセールスにおけるメンバー管理の注意点

導入することが決まったら、大切なメンバーの管理にも注力します。

社内メンバーのみで構成するか、社外メンバーも取り入れるか

インサイドセールスチームを作る際、メンバーを社内から募るか、一部の業務を外注するかは悩みどころ。チームをすぐに稼働させ、短期的に売り上げを伸ばしたい場合は、戦略設計などの部分は専門家の力を借りる方が効率がよいでしょう。

電話営業(テレアポ含む)や外回りでも、まったく営業活動をしたことがない人は、どんなに優秀な人でもはじめの数カ月は研修期間として勉強しながらの活動になります。すぐに売り上げを伸ばすことが目的の場合は、インサイドセールスや営業の経験者に一定期間外注し、徐々に内製化していくこともひとつの方法です。

分業体制でプロフェッショナルを量産する

営業は商材を営業する以外にもさまざまな業務が発生します。例えば提案書の作成、商材の勉強、提供後の保守管理、請求情報の整理、その他社内調整などなど。さまざまな業務をひととおり覚えてこなせるようになるまでとても時間がかかります。同時に、インサイドセールスはマーケティング部や開発部、請求の部署など様々な業務が複雑に絡み合うため、利用するツールも覚えることもたくさんになってしまいます。

チーム構築に際しては、まずは業務を分業制にしてプロフェッショナルをたくさん生み出すことで、滞りなく業務を進めることが可能になります。それぞれがわからないことが発生すればそれぞれが調査するのではなく、その分野のプロフェッショナルに頼ることができるからです。もちろん一定期間ごとにローテーションが必要です。

インサイドセールスのリード管理における注意点

いよいよ営業活動をはじめたら、リードを管理していく必要があります。管理がずさんになっていては、営業効率が上がらないどころか、クレームにつながってしまいかねません。

リード管理の重要性

インサイドセールスではフィールドセールスに比べて数倍以上の数のリードを管理する必要があります。しかし、このリード管理は日ごろの営業時に正しいオペレーションで扱わなくては、後々チーム全体が困ってしまいます。よくあるリードの扱いミスについてご紹介します。

まず最も多い問題が、「対応モレ」が生じてしまうことです。毎日常にリードが発生しつづけている状態においては、すでに対応済みなのか、これからコンタクトをとるものなのかが混ざってしまいがち。リードのタイトル名にわかりやすく対応済みかそうでないかを記載したり、未対応のもの(で時間が経ってしまっているもの)には目立つフラグを立てておいたりと、チームで決まった方式をあらかじめ決めておいてください。

2つ目に、1つ目と逆のパターンで、必要以上のコンタクトをとってしまうケースです。一人目のインサイドセールスが架電して100%お断りだったにもかかわらず、二人目のインサイドセールスが再度架電してしまっては、お断りされた顧客からのクレームにつながりかねません。対応したリードについてはきちんと記録し、他のメンバーとの連携ミスを減らしましょう。

膨大な案件を対応するためには

インサイドセールスとフィールドセールスでは、リードアプローチ数が15倍違うといわれています。もちろん、フィールドセールスの担当する顧客よりも小規模や低確度なケースが多く、売上金額や獲得件数も比例して15倍になるということではありません。

顧客1社の担当者や検討状況を把握しておくだけでも大変ですが、月に何百、時に何千と発生する(こともある)リードと、自分の担当顧客について、どのように把握すればよいでしょうか。

解決策はいたってシンプルで、「覚えない」ことです。覚えるよりも「整理して収納」するようにしてください。ツールを使いこなし、データを管理することが肝となります。

休眠リストの活用

インサイドセールスに限らず、営業で「失注」してしまったお客様の情報を保存している場合、インサイドセールスで有効に活用することができます。このようなお客様情報の集まりのことを「休眠リスト」と呼びます。

休眠リストはほとんどの場合再アプローチをかけることがありません。したがって、多くの顧客情報(リード)は眠りについたままとなります。失注の理由は「要件が合わなかった」「値段が合わなかった」「検討の時期が延びた」など様々ですが、これから営業を絶対にかけてはいけないということではありません。なぜなら、先ほどの理由はそれぞれ裏を返せば「機能が増えたら要件にはまる」「多めに予算を取れれば購入できる」「次の検討時期はあと○カ月後」となるからです。

お客様担当者は様々な理由により検討を中断してしまっている状態のため、これらの理由を解決できる情報を提供し続けることで、確度の高いリードに戻ってくる可能性があります。

休眠リストの顧客それぞれの失注理由を後から追うためには、時間と工数がいくらあっても足りません。多くの休眠リスト顧客にとって有益である情報を、休眠リスト顧客全員にDMで提供しつづけましょう。先ほどの例の3つの理由についてはそれぞれ提供コンテンツが異なるため、回ごとに話題をわけ、タイトルで内容がわかるようにして配信できるとよいですね。

運用後は最適化に向けた微修正を繰り返そう

インサイドセールスは、うまく導入できれば社内の情報が一気に集まってくるため、会社でも中心となるべき立ち位置だと考えます。そうした状態を生み出すためにも、導入後は営業の定着前にメンバーやリードの管理方法を徹底的に検討し、運用し始めてから最適化のために微修正していくという方法がおすすめです。強固な組織となるために事前に準備できることはしっかりと対応したいですね。

<関連書籍>
野口優帆『40分でインサイドセールスの考え方がわかる本』
野口優帆『続・40分でインサイドセールスの考え方がわかる本』

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