サード・パーティー・クッキーへの風当たりが強くなり、結果的にコンテンツマーケティングがここ1〜2年で注目されるようになりました。コンテンツマーケティングに力を入れる企業はこれからますます増えていくでしょう。コンテンツが量産されるなかで再度注目すべきなのが、物語を語る「ストーリーテリング」です。本稿ではストーリーテリングを実践するのに必要なマインドセットや取材、執筆の方法について解説します。
ストーリーテリングを実践するためのマインドセット
コンテンツマーケティングが注目されるのは大歓迎ですが、懸念もあります。コンテンツを量産することが目的となってしまうことです。「ペルソナにとって有益な情報を届ける」というコンテンツマーケティングの趣旨。コンテンツの量産は、ペルソナにとって好ましい状況とはいえません。また、コンテンツを作る側も疲弊してしまします。
オンラインコンテンツは、すでに飽和状態にあります。なかでも、SEOを意識した「お役立ちコンテンツ」は、飽和状態にあるコンテンツの最たる例といえるでしょう。ユーザーの役に立つコンテンツを作ることが出発点であったはず。なのに、SEOを意識しすぎるあまり、キーワードが主体のコンテンツになってしまっている。こうしたケースは今後ますます増えていくと予想されます。キーワード主体のコンテンツに、「ユーザー目線」はありません。
キーワード主体のコンテンツが量産される中、ストーリーテリングの影がやや薄くなってしまっているように思います。今こそ、人間味が施されたストーリーテリングに立ち返るべき時期が来ているのです。企業そのものが主人公のストーリーであったとしても、企業に人間が属している限り、物語には必ず人間が登場します。ペルソナを意識したストーリーを描くことで、ペルソナに共感してもらえるコンテンツを作れるのです。
ストーリーテリングを実践する際に懸念されるのは、制作に手間がかかることでしょう。取材前の準備に取材、構成作成、執筆、添削。一つのコンテンツを生み出すのに、かなりの時間を要します。しかし、手間がかかるからこそ、他とは違う独自のコンテンツを作れるのです。ストーリーに一つとして同じものはありません。
必要なのは、コンテンツ制作に対する考え方を改めること。「コンテンツを量産する」という考え方から、「ユーザーのために質の高いコンテンツを作る」というように考え方を変えれば、時間に追われる必要もなくなります。ストーリーテリングにかかる手間を恐れず、長い目で見てユーザーから信頼されるコンテンツを作らなければなりません。
取材時に心がけること
ストーリーテリングには取材がつきものです。ストーリーの主人公が組織であったとしても、組織内の人物が活躍する姿を描くことになり、人の心理を描く必要があります。資料が豊富であれば事実だけを描くことができますが、その事実に関係する人物の感情(文章でいえば「」の部分)は取材なしでは分かりません。では、取材の際に心がけることはどんなことがあるでしょうか。
まず、取材前に必ず取材相手について調べましょう。相手のことを知れば知るほど取材はスムーズに進みます。ネットや新聞・雑誌記事はもちろん、時間があるのであれば取材相手が執筆している書籍にも目を通すようにしましょう。調べた情報をもとに想定質問を作り、取材相手に事前に共有することで、よりスムーズに取材を進められます。
次に、調べた情報を整理しながら仮定のストーリーを作ります。あくまで仮定のため、見出しレベルで構いません。取材前にストーリーの流れを作るメリットは、取材時に相手とコミュケーションを取りやすくなる点です。相手の考えていることと仮定のストーリーが合致すれば、「このライターは自分のことを分かっている」と思ってもらえます。
仮に相手が自分の思っていた流れと違う回答をした場合でも、「なぜそのように思ったのか」と投げかけることで、取材を膨らませることができます。ただし、あくまで仮定のストーリーのため、相手を自分の考えているストーリーにはめ込まないよう注意しなければなりません。誘導するような聞き方は控えましょう。
取材をスムーズに進めるためにも、筆者は取材に入る前に相手に「取材の趣旨」「取材の流れ」を説明するようにしています。取材のゴールを相手と共有することで、的の外れたストーリーになることを防げます。
取材内容を見出しと箇条書きで整理する
コンテンツを制作するためには、取材内容を整理し、取材事項について理解を深める必要があります。ストーリーを描く素材について理解していないと、ストーリーの筋を作ることができないためです。
では、実際にどのように取材内容を整理すれば良いのでしょうか。まずは見出しを付けて大きなストーリーの流れを可視化しましょう。ここで設定する見出しはあくまで仮のもの。書き進める中で増やしたり減らしたりします。ストーリーの道しるべとして、仮で見出しを置くのです。
書きなれている人ならば、一気に書き進めることができます。不慣れな場合は、それぞれの見出しの下に取材事項を箇条書きで書き出していきましょう。箇条書きをつなげていくイメージで書き進めていくのです。
ストーリーテリングコンテンツはとにかく工数がかかります。慣れていない場合でも、じっくりと書き進めましょう。筋トレのように回数を重ねることで、ストーリーを描く力が付いてきます。
ストーリーはリードが9割
ストーリーテリングを取り入れた記事コンテンツにおいて、最も大切な要素は何でしょうか。タイトルや見出し、主人公が壁にぶつかった場面の描写など、様々な要素が考えられます。しかし、私は本文の始まりであるリードこそが肝となると考えます。ストーリーの出来はリードが9割だと思うほど、重要な部分です。実際に、ストーリーテリングが施されたコンテンツを書く場合は、リードの執筆にかなりの時間を使っています。
丁寧に描かれたリードは、一気に読者を惹きこむ力を持っています。「そのコンテンツで伝えたいことは何か」を端的に伝える必要があります。リードに力を入れる利点は書き手にもあります。頭の中にある「書きたいこと」を整理することができるためです。リードがうまく書けると、本文も驚くほどすらすらと書けます。
リードはできるだけ端的に書きましょう。短く、すっきりしたリードは優れたリードです。できれば200字前後に抑えておきたいところ。
リードには必ず主人公の紹介を入れましょう。紹介は長くなってしまいがちですが、いかにコンパクトにするかが腕の見せ所です。加えて、「主人公が何をして、その結果どのような状態になっているのか」を描きます。できれば「どんな課題があったか」も盛り込みたいところですが、長くなりそうであれば省いても良いでしょう。ある企業が働き方改革に取り組んだストーリーを描く場合、リードの簡単な例は以下のようになります。
創業100年を超える物語株式会社は、今や私たちの生活に欠かせない半導体の製造を手がけている。世の中の半導体需要が高まる中で、現場の社員は疲弊。退職する社員も増える中、山田社長は労働環境の整備に踏み出した。改革から2年で成果は見え始め、就職から3年以内の離職率は低下。「社員の幸せの追求」を体現する老舗企業の新しい姿に迫る。
リードが固まれば、後は本文でリードの要素を詳しく説明していくことで、ストーリーを語れます。ストーリーがうまく描けないという方は、リードの執筆に時間をかけてみてはいかがでしょうか。
大切なのは、時間がかかるということを恐れないこと。「コンテンツを量産しなければならない」という考え方を捨て、ストーリーを描いていきましょう。