新型コロナウイルス感染症の影響で、対面型の営業が難しい状況が続きます。金融業界においても影響は大きく、コンテンツマーケティングに力を入れる流れが強まっています。業界全体でコンテンツの数が増えると、内容の差別化が難しくなるという課題が浮上します。事実、海外でも金融コンテンツの差別化が課題となっています。今回は、米国シカゴに本拠を置くコンテンツマーケティングエージェンシー「イマジネーション」のホワイトペーパーについてご紹介します。ホワイトペーパーはContent Marketing Instituteが配信しているウェビナー内で共有されたものです。イマジネーションは金融機関のコンテンツマーケティングを得意としており、ホワイトペーパーではコンテンツの差別化について語られています。

金融コンテンツは差別化が難しい

コロナ下で、人々の金融関係の検索行動は大きく変化しました。パリのマーケティングツール開発会社「Kameleoon」によると、2020年には30%の消費者が銀行について検索し、ページにアクセスする時間を増やしています。この状況を受け、多くの金融機関でさまざまなコンテンツが配信されるようになりました。しかし、どうしても内容が似たようなものになりがちです。

ホワイトペーパーでは、金融業界でコンテンツを差別化するのは難易度が高いと述べられています。理由として、「ある程度の規模の銀行であれば、ほぼ全ての機関が当座預金や普通預金、住宅ローン、中小企業向けローンを提供しているからだ」としています。つまり、サービスの形はどこも共通しているため、コンテンツも似たようなものになってしまうのです。

もう一つ、「コンテンツの信頼性」という問題も顕在化しました。米国のマーケティングコンサルト会社「エデルマン」によると、2011~2019年にかけて人々の金融業界に関する信頼は高まっていましたが、2020年には2016年の水準に落ちています。イマジネーションは要因について、コロナの影響により人々はオンラインで情報収集する機会が増えたものの、金融機関が対応しきれなかった(ニーズに品質で応えられなかった)からだと分析しています。

ホワイトペーパーでは、過去の金融コンテンツについて振り返っています。2008年のリーマン・ショックを契機に、各金融機関は金融リテラシーを向上させるためのコンテンツを作り、ユーザーの信頼回復に努めました。次に流行したキーワードは「ライフステージ」「ライフモーメント」です。2010~2016年には「予算の組み方」「貯金の方法」「住宅購入の手順」といったコンテンツが増えたといいます。そして、共感を得ようとストーリーテリングにも力を入れ始めたと指摘しています。

もちろん、これらのコンテンツが不要ということではありません。ユーザーの役に立つ情報を届けるというコンテンツマーケティングの基本から考えると、必須のコンテンツでしょう。とはいえ、似た内容のコンテンツがネット上にあふれているのも事実です。「いかに差別化するか」は、今後の重要な課題といえるでしょう。

金融コンテンツで差別化するためには「ブランドのストーリー」を考える

金融コンテンツの差別化のヒントとして、ホワイトペーパーでは「ブランドのストーリー」を考えることを挙げています。同時に、ストーリーを考える際のポイントとして、4つの項目を紹介しています。

  • 課題を持つ人
  • 意識または無意識の目標
  • 味方と敵
  • 自社が与えられる価値

課題を持つ人は、ストーリーの主人公です。目標はその名の通り、主人公が目指すゴールを指します。主人公が意識していない(気付いていない)場合もあるでしょう。そして、主人公の味方になるもの、敵となるものを考えます。最後に、自社が主人公に与えられる価値(コンテンツ)を考えることで、差別化が実現します。

「ブランドのストーリー」と「ブランドストーリー」の違い

ホワイトペーパーでは、「ブランドのストーリーとブランドストーリーを区別する必要がある」とも述べられています。ブランドストーリーについては、「ブランドのコアバリューを語ること」と定義づけられており、従来のマーケターが取り上げがちなストーリーのことです。また、ブランドバリューとして頻繁に取り上げられるものとして、「信頼」「誠実さ」「敬意」「コミュニティ・リーダーシップ」「社員の価値」を挙げています。

銀行のコアバリューについて調査した記事によると、50行のうち34行が「誠実さ」をコアバリューとして挙げたとのことです。誠実であることはコンテンツマーケティングの理念とも共通することであり、持っておかなければならない価値観です。しかし、コアバリューをもとにストーリーテリングコンテンツ、あるいはお役立ちコンテンツを作ることが、似たようなコンテンツが量産される原因になっているともいえるでしょう。コンテンツの出し方、見せ方にも工夫が必要です。

ブランドのストーリーを考えたコンサルティング会社の例

ホワイトペーパーで挙げられている、ある投資コンサルティング会社の事例をご紹介します。同社の顧客は投資家やファイナンシャルアドバイザーです。同社は顧客に年次契約の更新を促すため、ビジネス書について解説する「ブックレポート」を毎月発信していました。

やがてブックレポートは「ブッククラブ」に形を変えます。ブッククラブはビジネス書だけでなく、小説や映画を紹介する形に変わりました。さらに、顧客が本や映画の内容について議論するプラットフォームも提供するようになります。なぜ、金融機関が小説や映画の情報を提供するだけでなく、議論の場も設けたのでしょうか。ここで先述の4要素が登場します。

課題を持つ人

同社はブックレポートの読者を調査しました。すると、ファイナンシャルアドバイザーは忙しく、「何を読むべきか、見るべき」について考える時間がないことが分かりました。また、ファイナンシャルアドバイザーは、AIやロボットなどの自動化されたアドバイザーと競争していることも判明しました。

意識または無意識の目標

ファイナンシャルアドバイザーの目標は「時間を節約したい」というわけではないと分析しました。もう一歩踏み込み、「仕事だけでなく、より良い父、母になるなどバランスの取れた人生を送りたい」「より良い人間になりたい」と設定します。

味方と敵

先述の通り、敵は自動化されたアドバイザーです。

自社が与えられる価値

以上の3要素を考えた結果、同社は顧客に対し「より人間らしくなる手助けをすることで、自動化されたアドバイザーと差別化させる」ことを価値に置きました。

以上が、ブッククラブが生まれた背景です。同社が実施した顧客調査によると、ブッククラブは契約更新の理由として、2番目に挙がっています(1番は同社のアドバイスの質)。

結局大事なのはコンテンツの受け手を考え抜くこと

今回は、金融コンテンツの差別化にヒントとなる「ブランドのストーリー」について解説してきました。ご紹介したフレームワークは金融コンテンツのみならず、あらゆる種類のコンテンツで応用できる考え方です。コンテンツの差別化を考えるうえでも、コンテンツの受け手(ペルソナ)について考え抜くことが大切といえます。また、コンテンツによって受け手がどのような状態になるかを想定することも同じく重要です。コンテンツについて行き詰ったときは、ペルソナに立ち返りましょう。