米オープンAIが開発したAI「ChatGPT」がコンテンツマーケティング業界やSEO業界で話題となっている。マーケティングにどういった影響を与えるのか、考察した。

ChatGPTの実力

筆者は実際にChatGPTを試してみた。質問を入力すると、すぐさま回答が入力されていく。入力のスピードは、人間と同レベル。人格を感じさせる回答が出てくることもある。時折、誰か知り合いとチャットをしているかのような錯覚を覚える。

ChatGPTウェブサイトより

「鉛筆の削り方を教えてください」といった質問を入力すると、スムーズに回答を示してくれた。日本語的にやや粗い部分があったり、事実誤認があったりもするが、人の目で最終チェックさえすれば、そのまま「オリジナルコンテンツ」として公開できる回答も多かった。人間によるチェックが不要となる未来は近そうだ。

AIを使いこなせ

ChatGPTの登場で、欧米圏のSEO業界は騒然となっている。ネット上では、ChatGPTをSEOにどう活用するかという視点のコンテンツが早速お目見えした。

実は、何年も前から、英語対応のコンテンツ制作ツールはある程度実用化されていた。2018年、筆者は米国で開催されたコンテンツマーケティングのカンファレンスにおいて、ツールベンダーの出展ブースを訪問したことがある。当時でもツールの精度はそこそこ高かった。「あと10年くらいしたら日本でも実用化されるかもしれない」。当時、ほかのカンファレンス参加者と、こんな会話をしたことを覚えている(英語ではすでに実用的な多数のツールが存在する: https://renaissancerachel.com/best-ai-content-creation-tools/)。

contentmarketingworld

この予想は、おそらく外れる。もっと早く実用化されるのだ。AIの進化速度は、我々の想像を超えている。単純作業や答えがはっきりしている業務は、すべてAIがやってくれるだろう。SEOコンテンツの制作もしかりである。規模の大きな組織であれば、マーケティングの場面において、AIを理解し、うまく使いこなすことが求められる。

SEOコンテンツは飽和状態に

ライフスタイルの多様化などにより、以前のようなマスマーケティングが結果につながりにくい場面が出てきている。こうした状況下において、認知獲得を目的としたコンテンツSEOの導入は、企業規模の大小を問わず当たり前となった。クラウドソーシングのプラットフォームには、1本数百円のライティング案件が大量に流れた。結果、膨大な量のコンテンツが生み出された。ネット検索すれば一目瞭然だが、分野によってはすでにSEOコンテンツは飽和状態となっている。

ChatGPTの回答は、上記のようなSEOコンテンツを彷彿とさせる。文体、雰囲気がそっくりなのだ。質問の仕方には多少の工夫が必要だが、疑問を解消するのに十分な回答が得られる。ChatGPTに限らず、これからAIはさらに加速度的に進化していく。すると、「誰もが」「無料で」「簡単に」SEOコンテンツを量産できる時代がすぐに訪れる。ただし、それを検索エンジンが評価するかどうかはまた別の話であり、場合によってはスパム扱いされる可能性もある。現実的には、企画時などにAIの力を借りながら、効率よくSEOコンテンツを量産していく形になるだろう。とはいえ「誰もが」「無料で」「簡単に」の部分は変わらない。

22年12月15日、グーグルの検索品質評価ガイドラインが更新された。「個人的な経験が豊富な人が(ページを)作成すると、信頼性が高く、その目的を十分に達成することができます」と説明した上で、コンテンツ制作者の「経験」を重視する姿勢を明確にした。筆者は、この発表のタイミングは偶然でないと見ている。AIがコンテンツを量産できてしまう状況下において、何を評価すべきか。そう考えた時、やはり専門性を持つ人物が、実際に経験したことをベースに書いたコンテンツを評価すべきという議論の流れが、自然である。

https://static.googleusercontent.com/media/guidelines.raterhub.com/ja//searchqualityevaluatorguidelines.pdf より

今のところ、AIが自身の経験に基づくコンテンツを生成することは難しい。もし、AIがあたかも経験したかのようなエピソード入りのコンテンツがあったならば、内容に偽りあり、である。将来的に、AIが搭載されたヒューマノイドが実社会で自由に動き回れるようになったら、「経験」を獲得できるだろうが、もう少し先の話である。

余談だが、22年6月11日のワシントンポスト電子版によると、グーグルのAI組織で働く男性が、グーグルのAIチャットボット生成ツール「LaMDA」と宗教について話しているうちに、「チャットボットが自分の権利や人格について話していることに気づいた」という。その後男性は、グーグルに対し「LamDAが知覚を持つという証拠」を提出するが、却下されている。「AIは意識や意志を持つのか」という議論に通じる話である。知覚の有無について我々が確認する術はないが、AIが経験を獲得する未来は、思ったよりも近いのかもしれない。

オーディエンスを集め、ソートリーダーを目指せ

本記事のタイトルを「ChatGPTはコンテンツマーケティングをどう変えるのか」とした。結論から言えば、業界全体がより人間味のあるコンテンツ、よりユーザーにとって有益なコンテンツを制作していくことになろう。そのためには、ペルソナとカスタマージャーニーの精度が重要となる。

戦略なき量産型のコンテンツSEOは、近いうちに絶滅危惧種となるだろう。日本ではなぜか「コンテンツマーケティング=コンテンツSEO」という誤った言説がまかり通っているが、業界全体がコンテンツマーケティングを正しく理解するようになると筆者は期待している。

米国のコンテンツマーケティング業界で重要性が度々指摘されている「オーディエンスビルディング」は、ますます欠かせないプロセスとなる。(見込みもしくは潜在)顧客と直接つながっている状態を、いかにして構築していくか。「この企業(ブランド)とつながりたい!」と考え、能動的に個人情報を渡してくれる「サブスクライバー」を、どうやって獲得していくか。AI生成のSEOコンテンツではサブスクライバーの獲得が(現時点では)難しい。人格、人間味を出していくしかない。信頼を積み上げていくしかない。あらゆる事業者が、いわゆる「ソートリーダー(Thought Leader)」を目指さねばならない。

刈り取り型から、信頼を積み重ねて関係性を構築する本質的なマーケティングへ。ChatGPTは、基本に立ち返ることの重要性を、我々マーケターに教えてくれる。