新型コロナウイルス感染症の影響もあり、コンテンツマーケティングの注目度が急速に高まりました。一方で、ネット空間にはコンテンツがあふれ、中には品質が低いと言わざるを得ないコンテンツも散見されます。戦略なき大量生産型のSEOコンテンツは、その最たる例です。コンテンツ制作においては、質の高いコンテンツを作るためのコンテンツ戦略が不可欠。今回は筆者が実際に見た「残念なコンテンツ戦略」の事例を紹介します。

コンテンツ制作の目的を忘れてしまっている

コンテンツを制作する前提としてマーケティング戦略があり、コンテンツ一つひとつに目的があるはずです。目的がなければ、コンテンツの企画はできません。「読者にどのように行動してほしいのか」「このコンテンツが果たす役割は何か」を主軸に置いてコンテンツ全体を設計していくべきです。

一方、目的がなくても企画や構成を作れてしまうのが、SEOです。自社製品やサービスに少しでも関連するキーワードを関連付けるだけで、「それらしいコンテンツ」が完成してしまいます。

しかし、想定する見込み顧客は、本当にキーワードに関連付けられたコンテンツを求めているでしょうか。また、見込み顧客の情報ニーズは満たせているでしょうか。

コンテンツ制作を一度始めてしまうと、構成や細かい内容にばかりに目が行ってしまい、見込み顧客のことを忘れがちです。結果、制作目的を見失ってしまいます。

「毎月〇本更新する」と数の目標を挙げているケースをよくお見かけします。これでは「メディアを維持するためだけ」の目標となってしまい、中身のないコンテンツが量産されてしまいかねません。「何のためにこのコンテンツを作っているのか」を常に頭に入れておきましょう。

中長期的な関係構築を想定できていない

検索上位を狙うために、キーワードの組み合わせやキーワードをより多く獲得することばかりを考えてしまった場合、仮にコンテンツを読んでもらえたとしてもユーザーとの中長期的な関係構築は期待できません。

ペルソナを設定することなくキーワード分析を基にしたSEO記事を制作し、大量のリードを獲得できたとします。しかし、たまたま該当キーワードで検索しただけの、全くターゲットに当てはまらないユーザーばかりが集まったケースも考えられます。また、設定した通りのペルソナが訪れたとしても、関連するコンテンツを探して一時的に滞在しただけに過ぎないかもしれません。ブランドのことを認識することなく離脱されてしまっては、コンテンツの意味がありませんよね。

こちら側から情報を提供するような一方通行のコミュニケーションだけでなく、ペルソナの反応を受け取って、施策をアップデートしていく必要があります。まずは設定したペルソナの考えと行動を想像して、行動に沿ったフォロー、サポートができるようなコンテンツを企画しましょう。

キーワード分析>ペルソナになっている

オウンドメディアにおいて、そもそもペルソナがしっかりと設定できていないケースが多く見られます。ペルソナに最終的にとってほしい行動を想像せず、「○○というキーワードについて書きたい」といったように、キーワードが先行してしまっているのです。原因として、キーワードツールによるキーワード分析で検索数や上位ページを見て、自社製品やサービスと安易に結びつけてしまったということが考えられます。

キーワードツールで分析したキーワードは、オウンドメディアと関連があるものであることは事実でしょう。しかし、ペルソナを設定しないまま、関連するキーワードから連想して記事コンテンツを企画・制作したところで、オウンドメディアの目的・目標は達成できるでしょうか。

たまたまキーワード検索で見込み顧客がページを訪れたとしても、見込み顧客にとって有益な情報を適切なタイミング・方法で届けられていなければ、信頼を勝ち取れません。再訪が望めないばかりか、検討対象から完全に外れてしまうことも考えられます。

見込み顧客から信頼してもらうためにも、「たまたまキーワード検索でひっかかってページに来た人を増やす」から「ペルソナにぜひこのページに来てもらいたい」と考え方を変えて、コンテンツを企画しましょう。

たまたまオウンドメディアに訪れたエンゲージメントの低い人は、顧客化する可能性は低いでしょう。PV数を気にするあまり、キーワードありきの企画を行っている場合は、一度スタート地点に戻ってペルソナからコンテンツを検討してください。

カスタマージャーニーマップを意識していない

ターゲットとなる人物の態度変容を促す過程を可視化するカスタマージャーニー。作成にあたっては、ペルソナが購買までどのような道を歩み、その過程でどのようなコンテンツが必要となるかを検討していくことになります。コンテンツマーケティングではカスタマージャーニーの中で必要とされている情報を、適切な方法で提供する手段としてコンテンツを制作します。

しかし、ペルソナとカスタマージャーニーマップが曖昧なケースは多々あります。カスタマージャーニーマップがなければ、設定したペルソナがコンテンツに触れる機会があったとしても、タイミングが適切でない可能性があります。結果、コンテンツが十分な効果を発揮しないこともあるのです。

例えば、すでに情報収集を終えて購入検討段階に入ったペルソナがいるとします。ペルソナは購入前に決断する材料を探しているのに、ファネル上層の認知獲得に関する情報ばかりを提供している。こんな状態では、いつまでたっても購入を決断できません。

違う例では、まだ情報を流し見る程度のユーザーがページに訪れたとします。長文のコンテンツのみが並んでいれば、「時間がもったいないから読むのはやめよう」と離脱を促してしまうことになります。設定通りのペルソナがページを訪れたとしても、検討段階に合わせたコンテンツを適切な場所に配置する必要があるのです。

コンテンツ制作の前にカスタマージャーニーマップを作成し、それに沿ったコンテンツ企画ができていれば、上記のようなケースを極力減らせるでしょう。やみくもにコンテンツを企画していくのではなく、ユーザーのマップ上の現在地を意識してください。

制作したコンテンツの活用方法が検討されていない

ペルソナとカスタマージャーニーマップに沿って必要なコンテンツを作ったとしても、「公開して終わり」という状況では、最大の効果を発揮できません。

例えば、カスタマージャーニーマップの「認知」「情報収集」「比較検討」「購入」それぞれのコンテンツについて、無計画かつ大量に公開しているだけでは、ペルソナにコンテンツが届かないことも考えられます。この場合、「メディア上でペルソナの検討段階ごとにコンテンツが届きやすいよう表示方法やページを分ける」「誘導する導線を設計して、コンテンツの置き場所を工夫する」といったことが必要になります。

また、カスタマージャーニーマップの「比較検討」段階の見込み顧客に対して、「他社製品と比較すること」を助けるコンテンツをメディアに公開したとします。場合によっては、インサイドセールスやフィールドセールスの営業資料に応用できるかもしれません。

メディアに公開するだけでなく、紙の資料に落とし込むことが想定される場合は、あらかじめ先を見据えて設計するもの一つの手です。例えばコラム系コンテンツの中に他社との比較を盛り込む際、少し手の込んだ比較表を制作すれば、そのまま紙の営業資料に活用できます。

制作するコンテンツは、カスタマージャーニーマップ上にマッピングされた一つのコンテンツかもしれません。しかし、せっかくコストをかけて制作しているのですから、その後の活用展開にも考えを巡らせてみましょう。活用範囲が広まれば、一つひとつのコンテンツをより丁寧に制作できるでしょう。

コンテンツの完成まで時間がかかってしまうかもしれませんが、大量のコンテンツを作り、「数打てば当たる」と考えるのではなく、一つのコンテンツを大切に扱ってほしいところです。

「SEO対策=Google対策」と考えている

記事コンテンツ制作において、SEO対策はあくまでコンテンツ戦略の一つです。それだけができていればよいというものではありません。

個人的には、ペルソナが必要としている情報をコンテンツにきちんとまとめており、かつペルソナのもとに適切なタイミングで届けられるのであれば、SEO対策は必要ないと考えています。しかし、誰もがスマートフォンやパソコンを持っている時代。ペルソナがカスタマージャーニー上で「○○というキーワードで検索」という行動が生じる可能性は高く、検索流入からコンテンツを読んでもらうためにどうしてもSEO対策も必要となってきます。

あくまでペルソナの思考や行動をしっかりと検討したうえで臨むSEO対策に意味があるのであって、「SEO対策=Google対策」ではありません。Googleから記事を評価してもらうために、キーワードや盛り込む内容を検討するのは本末転倒です。

あくまで最重要視すべきなのはペルソナです。ペルソナが検索するであろうキーワードや組み合わせを考えて、企画を進めましょう。「○○ ××」より「○○ △△」のほうがボリュームが多かったとしても、あなたにとってのペルソナは前者のキーワードで検索するケースが多いかもしれません。

「ペルソナに届きやすいようにページ上位に表示する」または「ニーズのある検索を漏らさないように関連キーワードを網羅する」といった工夫を加えることが必要となる場面は多いでしょう。

企画構成が完成して制作に入る前に、必ずペルソナの名前と顔を思い浮かべてください。戦略の初めに検討したペルソナが、上位に表示されたページを訪問したとして、情報ニーズを満たせるでしょうか。次のアクションに進みたいと考えるでしょうか。また、そもそもコンテンツの内容は貴社のブランド・キャラクターに合っているでしょうか。

SEO対策が全て悪ではありませんが、数字や結果にとらわれすぎずに、制作の各ステップでペルソナのことを思い浮かべてください。

長期運用を見越した体制構築ができていない

コンテンツ制作は企画から校了まで多くのステップを踏んで進めるため、時間と手間がかかるもの。弊社でもコンテンツ制作の相談をいただいてヒアリングさせていただきますが、大きなコンテンツ制作の計画があるものの、専任は一人、または全員空き時間に対応する程度で実質ゼロといったケースも多い。こういったケースでは、「継続的に企画・制作ができずコストだけがかさみ目的が達成できない」「低品質なコンテンツで自社のブランドを下げてしまう」といったことが発生しがちです。

継続的に制作して公開するだけでなく、古いコンテンツを見直して更新したり、コンテンツからペルソナがどのように動いていったかを分析したりと、コンテンツ公開後も作業が完全になくなることはありません。コンテンツの管理には、一定の人出が必要なのです。

将来を見据えて安定的に運用できるよう、まずはコンテンツ制作による長期的な展望(どうなっていたら目標達成なのか、長期的にこのコンテンツたちをどうしていくのか)を決めておく必要があります。その上で、運営のための社内体制を整え、レギュレーションや社内外の決まり事をマニュアル化しておくことをおすすめします。

消費者のリテラシー向上に追いついていない

SEOを意識するほど、コンテンツは無機質なものとなります。結果、「適切な人に適切なタイミングで適切な情報を届ける」というコンテンツマーケティングの定義とはかけ離れてしまいます。

SEO対策によって検索結果の上位に掲載されるようになれば、コンテンツが人の目に触れる回数は一時的に増えます。そのため、オウンドメディアへの流入数が増え、リード数も増し、営業機会がより多く生まれるように思えます。しかし、このロジックはもはや通用しません。理由は以下の2点です。

・コロナ禍に入りオンラインコンテンツが増え、消費者は本当に必要なコンテンツ以外は見なくなった
・消費者側でコンテンツの良し悪しを見抜く力が養われてきた

コンテンツを発信する企業側は、できるだけ多くのコンテンツを作り、少しでも多くのキーワードで、できるだけ上位を狙おうとします。ペルソナの求める情報をしっかりとらえたコンテンツを量産するのであれば、世の中のためになるでしょう。しかし、思考停止気味にキーワードから生成した、低品質で中身のない、似たような記事を大量に作ることに意味はありません。「コンテンツがたくさんできた」という満足感だけで、制作担当者が疲弊してしまうだけです。

高品質かつペルソナの求める情報をしっかりとらえたコンテンツには、必ずコンテンツ戦略が存在します。具体的には、コンテンツのターゲットを定め、ターゲットが何を求め、企業側がどう応え、ターゲットと企業の利益につながるかという一連の流れが設計されているのです。

良質なコンテンツが制作できれば、コンテンツの受け手の心が動きます。自社のメディアに数百の低品質コンテンツがあるのと、十数本の良質なコンテンツがあるのとでは、見栄えは前者の方が良いように感じる方もいらっしゃるでしょう。しかし、長い目で見ると、後者のほうが企業の利益にも貢献するはずです。コンテンツマーケティングにおいて、コンテンツ戦略は何より重要なのです。

まとめ

適切なコンテンツ戦略を描けていない、またはコンテンツ戦略がそもそもない場合、コンテンツマーケティングに時間とコストをかけて取り組んだとしても効果は表れません。手当たり次第作業してみるのではなく、学んだ方法が自社の目指すべきものと合っているか、そもそも目指すべきところはどこか、腰を据えて検討した上で取り組んでいただきたいと思います。期限を先に決め、期限ありきで動いていくケースが増えてきていると感じます。ぜひミッション、ゴール、ペルソナを大切にしながら取り組んでください。