筆者が営業パーソン時代に、言葉だけは知っていたカスタマージャーニーマップやマーケティングファネル、セールスファネル。当時聞いても「ああ、マーケティング部のお話だな」とスルーしていました。しかし、マーケティングと営業の関わりについて研究を進めるうちに、この2つは営業セクションにも必要な考えだと気付きました。本稿では、カスタマージャーニーが営業活動に必要な理由と、2つのファネルについて説明していきます。

営業対応にカスタマージャーニーを意識しているか

マーケティング部門でペルソナとカスタマージャーにマップを詳しく検討し、見事にマッチしたリードを獲得することができたとします。しかし、営業担当がカスタマージャーニーを意識していなければ、購入に至るまで時間がかかる可能性があります。

インサイドセールスが営業をする前提の話ですが、リードラベリング段階である程度見込み顧客の状況(確度の高低)は判断できているはずです。しかし、確度の高さにかかわらず、見込み顧客がどのような検討ルートをたどってきたかは、ある程度推測または情報収集する必要があります。その検討ルートが、自社であらかじめ推測していたもの(カスタマージャーニーマップ)と同じであるかについては、考慮する必要はありません。

たとえば、大量に情報収集し、検討に検討を重ねたリードの確度がA(非常に購入意欲が高い)だったとしましょう。この場合、追加での情報供給は控えめにしておき、購入のサポートに近い営業活動を行います。しかし、逆のパターンであまり情報をもっておらず広告からいきなり購入ボタンに飛び込んできてしまった場合、一気に購入に至ればトラブルのもとになります。自社製品の特長や注意事項などを提供し、購入意思を探るようなワンクッションも必要かもしれません。

このような顧客のこれまでの検討状況は、システムで解析して把握することも一部可能ですが、ほぼ全てのパターンでヒアリングが必要となります。自社製品のサイトに訪れてくれた経緯、これまでどのような製品を見てきたかなど、失礼になりすぎない程度に状況を把握するためのヒアリングを入れるようにしてください。データ上の顧客と実際の顧客が、カスタマージャーニーのどこにいるのかを把握することが重要です。

マーケティングファネルとセールスファネル

マーケティングセクションだけでなく、セールスセクションでも耳にするようになってきたファネルについて考えていきたいと思います。

「マーケティングファネル」と「セールスファネル」。どちらもよく耳にする言葉ですが、違いを正確に把握しておきたいものです。

まずマーケティングファネルですが、市場の幅広い層を対象とします。もちろん細かく(30代男性製造業システム部購入担当……など)ペルソナを設定します。とはいえ、大前提として、その30代男性に当てはまる人全員がその製品を購入したいとは思っていません。

市場全体から「その特徴に当てはまる同じ悩みを持ち、自社の提供できる製品でそれが解決できる」という属性の見込み顧客を集めるところが、ファネルの「トップ」。そこから、丁寧な営業工数をかけるに値すると判断できるレベルまでの、ナーチャリング(育成)が主目的となります。

一方セールスファネルは、リードジェネレーション後、つまり見込み顧客に営業をしていくためのものです(ちなみにどちらのマーケティングファネルがコンバージョンまで時間がかかるのか、一概には言えません)。見込み顧客からより確度の高い顧客に育てていく、もしくは確実に購入してもらうためのサポートがメインになります。

マーケティングファネルのステップ

マーケティングファネルのステップについて見ていきましょう。クマベイスメルマガや本ブログを読んでくださっている皆様はすでにご理解の内容かと思います。マーケティングファネルなので、段階ごとにマーケティング担当の行動を記載します。

マーケティングファネルには、トップ、ミドル、ボトムの3つの段階があり、顧客とのつながり方が決まっています。呼び方は様々、もう少し細かく分けて4段階以上示しているものもありますが、今回は大まかに3段階に分けてみていきます。

◆トップ – 認知
ファネルの最上段は、ブランドやオウンドメディアなどのコンテンツに興味を持ったすべての人が、カスタマージャーニーに入るフェーズです。この段階での目標は、マーケターがコンテンツの読者に対してブランド認知度を高め、競合他社との差別化を図り、見返りを求めずに役立つコンテンツを提供することです。

マーケティングでは、ブログ記事、ビデオ、ポッドキャスト、動画など、たくさんの情報コンテンツを提供します。コンテンツが目的だった読者が次第にファンとなり、問い合わせもしくは追加で情報を得るために、自ら個人情報を提供する。こうなれば、ファネルの次のステージに移ったと判断できます。

◆ミドル -情報収集、比較検討
認知段階におけるコンテンツの「読者」が、「見込み顧客」となりました。この段階での目標は、対象の製品やサービスが競合他社よりも選ぶ価値があるということを、見込み顧客に伝えるフェーズです。

ここでは、見込み客が解決しようとしている問題が何であるかを知り、それに答えるような情報を提供します。対象の製品やサービスが見込み顧客にとって最適であることを示す事例や、技術的な仕様を丁寧に説明することが効果的です。

ファネルの真ん中にいる見込み顧客は、具体的に購入を検討するため、ホワイトペーパー、ケーススタディー(事例)、レポート、ウェビナーや競合情報などのコンテンツが欲しいと思っているはずです。ここまでくると、営業担当にヒアリングすることで、実際に見込み顧客がどんな情報を欲しいと考えているのかを把握できるでしょう。

◆ボトム – コンバージョン(購入)
前の段階で実施したナーチャリングの後、適切にコンバージョンを獲得していくフェーズです。営業担当者の手元には、契約を成立させるために見込み顧客に関する多くの情報がそろっているはずです。

この段階でのコンテンツには、無料トライアル、利用している顧客の声などがあります。また、この段階までリードが到達すると、モデルとなる見込み顧客に近い見込み顧客の購入フローを観察することで、カスタマージャーニーマップでマッピングしたコンテンツが適切であったかどうかを振り返ることもできます。

セールスファネルのステップ

セールスファネルはマーケティングファネルの一部です。マーケティングファネルのボトム部分に注目して、そこをさらにセグメント分けしたとイメージしてください。

セールスファネルの各ステップでは、製品の購入についてもっと知りたいという意思のある見込み顧客に対して行動します。今すぐ営業をかけることができる見込み顧客群を、検討ステージごとに視覚的に表したものというイメージが近いでしょう。

セールスファネルのステージは、マーケティングファネルよりも目的が明確で、各ステップごとに案件に合わせた対応が求められます。

◆トップ – マーケティング施策からの流入
この段階でDLページの個人情報フォームへの入力~コンテンツのダウンロード、その他の方法で連絡先を提供してもらっているはずです。製品購入に興味がある、確度の高い見込み客であると判断できます。

ここまでくると「営業担当の話を聞きたい」と連絡してくれる可能性も高いでしょう。マーケティングファネルのボトム部分(コンバージョン(購入検討))にあたり、マーケティング施策の延長上にあります。

◆ミドル – リード登録
ここで営業チーム(インサイドセールス、フィールドセールス問わず)が本格的に登場し、そのリードに営業しようとしている製品がマッチしているかどうかを判断します。例えば営業しようとしている製品の導入規模とリードの会社規模、予算等です。

マーケティングとセールスのKPIの多くは、リードが担当者の購入検討に入ったらすぐに行動することを重視しています。しかし、もしこの段階で多くのリードが適切ではない、つまり営業が無駄になってしまう(営業すべきでないと判断したリードだらけ)のであれば、マーケティングと営業との施策間になんらかのズレがあるとわかります。このフェーズはインサイドセールスでいうラベリングですので、ごく短時間で判断するべき部分です。

◆ボトム – 本格的営業
ここでは、営業担当者が、購入規模、スケジュールや緊急性、製品やサービスが顧客の問題を解決するかどうかついて顧客と話をします。このフェーズが皆様想像されるいわゆる営業活動です。

◆ゴール – クローズ
この段階では、「見込み顧客が購入して顧客となる」もしくは「条件などが合わず営業機会を失う」のいずれかの結果となり、案件をクローズします。失注の原因は競合他社を選択した、購入プロジェクトを延期することを決めた、価格が合わなかった――のいずれかがほとんどです。

この失注したリードは、マーケティングファネルに戻され、別アプローチからセールスファネルに戻ってくるのを待ちます。営業活動が成功、購入した場合は、カスタマーサクセスや運用部隊などのポストセールスに引き渡すことになるでしょう。

2つのファネルをシームレスにつなげる

マーケティングとセールスの間にはそれぞれ活動のステップがありますが、必ずしも両者で細かなすり合わせが行われているわけでなく、無駄や不足が生じている可能性があります。わかりやすい例で言うと、マーケティングから営業への見込み顧客の受け渡しタイミングの認識がずれていると、見込み顧客に対して重複した情報の提供や説明を行ったり、逆に見込み顧客の検討状況をスキップした対応をすることで顧客が置いてきぼりになってしまったりします。そうなると適切な対応ができているとは言えませんね。マーケティングではペルソナ、営業では見込み顧客となった相手の立場に立ってみるとわかりやすいかもしれません。

マーケティングファネルからセールスファネルへの受け渡しは、慎重かつシームレスに行う必要があります。そもそもマーケティングと営業で組織が大きく離れている場合もあり、情報伝達も同じ部門間よりハードルが高いかもしれません。とはいえ、同じ「購入してもらう」という目標を社として掲げているかと思いますので、互いの目標や活動、情報共有については丁寧に行えるようフローの見直しをおすすめします。

 

 

<関連書籍>
野口優帆『40分でインサイドセールスの考え方がわかる本』
野口優帆『続・40分でインサイドセールスの考え方がわかる本【実務編】』
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