confab

新型コロナウイルス禍においては、デジタル・トランスフォーメーション(DX)へとかじを切るブランドが続出しています。特にグローバル展開するブランドにおいて、その動きは顕著です。ここでポイントとなるのが「UXライティング」です。今年オンライン開催されたコンテンツ戦略のカンファレンス「Confab」より、グローバル展開のためのUXライティングのセッションを紹介します。

UXライターの役割

ユーザー体験を創出するライティング(writing)を意味するこのUXライティング。日本ではスマホアプリ業界以外ではあまり耳にする機会はないのですが、欧米では一般的な概念です。Confabでも、いくつかのセッションで取り上げられていました。

いかにしてライティングでユーザー体験を創出するのか。UXデザイナーとの連携がカギとなります。UXデザインは、例えばWebの場合、チャート図のような形で画面やボタン単位での導線設計を行います。

それぞれのUXデザインが固まったら、それぞれのフェーズ(画面やボタン)において、UXライターと呼ばれる人たちが、コピーやテキストを考えていきます。ユーザーを意識して、ユーザーがストレスなくコピーを理解し、行動を起こせるよう、設計&執筆することが求められます。

もちろん、一度考えて終わりということではありません。UXライティングは(UXデザインもですが)PDCAありきの作業です。何度もA/Bテストを繰り返して、最適化を目指します。

グローバルなUXライティングのフロー

UXライティング関連では、Confabにおいて興味深いセッションがありました。アリババグループの国際ECプラットフォーム「アリエクスプレス」でコンテンツストラテジストを務めるAwen Wen氏によるプレゼンで、タイトルは「インターナショナルオーディエンスのためのUXライティング」。中国、ロシア、スペインにオフィスを持つアリエクスプレスがいかにしてコンテンツのローカライズ、つまりUXライティングに取り組んでいるのかをシェアするというものです。

アリババグループほどのグローバル企業ともなれば、コンテンツのローカライズは不可欠な作業となります。通常、メインとなる言語(例えば英語)のコンテンツを制作し、そこからさまざまな言語へとコンテンツをローカライズしていきます。ローカライズが完了した後も、ネイティブのパートナーとコンテンツの品質を高める作業に入ります。決して、本社がある国だけのチームで取り組んではなりません。微妙なニュアンスや国民性などは、現地の人材でなければ理解することは難しいでしょう。

コンテンツをローンチしてからも、A/Bテストやユーザビリティーテスト、サーベイを定期的に実施します。また、ノウハウの蓄積や効率化を目的に、用語集やテンプレート、ケーススタディの作成にも取り組みます。

日本では数が少ないローカライゼーションライター

Awen氏は、コンテンツをローカライズさせる上で重要なものとして、以下の項目を列挙。特にローカライゼーションライターとのコミュニケーションが重要であると指摘します。

  • 他の言語に対する文化的な偏見や思い込みを「自覚」する(各言語への基本的な理解を持つ)
  • 重要なコンセプトやコンテンツの変更については、毎回必ずローカライゼーションの専門家やローカライゼーションライターに確認する
  • コンテンツの一貫性を確保するために、コンテンツブリーフ(コンテンツの目的等をまとめた1枚ものの資料)や用語集を用意する
  • ローカライゼーションライターに対し十分すぎるほどのガイダンスを行う
  • 言語/コンテンツのルールをシステムに組み込む→例えば日付の書式、スタイル、文字数制限など

ローカライゼーションライターとは、日本ではあまりなじみがないかもしれませんが、ブランドがグローバル展開する際に不可欠な人材です。例えば翻訳家がコンテンツを翻訳するわけですが、それは直訳でしかありません。したがって、現地の人からすると読みにくかったり、コンテンツの目的を十分に果たせなかったりします。それを書き直すのがローカライゼーションライターです。

ネイティブであること(文化的理解があること)、マーケティングの基礎知識があること(+UXライティングを理解していること)、倫理観があることなどが求められるローカライゼーションライター。欧米では一般的な存在といえます(欧米の求人サイトで検索すると多数ヒットします)。外資系ツールのサービスページの日本語が、とても読みにくかったという経験は誰しもお持ちではないでしょうか。個人的な見解ですが、日本語に対応するローカライゼーションライターは、極めて数が少ないと感じています。

コンテンツのローカライズは日本国内各地でも有効

Awen氏は、「言葉の選択や文化的な偏見に注意しよう」「過去の経験や失敗から学び、ケーススタディを作成しよう」と語り、自身のプレゼンを締めくくりました。グローバルなマインドを持ち、かつコツコツとノウハウをためていく。これこそがグローバル展開時におけるUXライティングに不可欠なことなのです。

もちろん、コンテンツのローカライズは、国内の各地域でも本来有効なものです。東京都民と熊本県民とでは、少なからず価値観が異なります。同じコンテンツで全国展開するのではなく、地域を考慮したUXライティングを施すことは、特にスマホアプリやWebサービスにおいて研究すべきテーマだと、Awen氏のプレゼンを聴講して感じました。