みなさんは「サウンドスケープ」(soundscape)という言葉の意味をご存じでしょうか。日本語で「音の風景」や「音景」を意味するこの言葉。1960年代の終わりごろ、カナダの現代音楽作曲家・「R.マリー・シェーファー」によって提唱された概念です。「ランドスケープ(landscape)」からの造語で、音を風景の一部として捉え、自然の音や騒音等の人口音も含めた「社会を取囲む様々な音の総体」を指します。実はこのサウンドスケープ、マーケティングにも使えるのです。
「サウンドスケープデザイン」とはそもそも何なのか
例えば、都市部では人の行き交う雑踏や電車の発車音。山間部では風によって木々が擦れる音や野生動物の鳴き声、海岸部であれば波の音や船の汽笛の音等、その土地や場所特有の音で形作られています。
そしてこのサウンドスケープを人口的に作り出していく事を「サウンドスケープデザイン」と呼びます。サウンドスケープデザインの概念はマーケティングにおいても極めて有効な手段であり、店舗等での応用も可能です。
様々な場面で応用される、サウンドスケープの概念
ここでサウンドスケープの具体例をいくつかみてみましょう。
サウンドスケープデザインは、都市デザインにおいても多く活用されています。
弊社がある熊本市でも、その取り組みが行われていた場所があります。下通から新市街を抜けると「辛島公園地下駐車場」と当時の「県民百貨店」(閉店)へ通じる地下通路。
この地下通路には水路が設置してあり、実際に水が流れる音が聞こえてきます。まだ県民百貨店があったころは設置されているスピーカーから、様々な自然音や音楽が、気付くか気付かないか程の音量で「うっすらと」流れていました。
地下通路と言えば薄暗い、あまりポジティブとは言えないイメージをお持ちの方も多くいらっしゃるかのではないでしょうか。しかしそこは、水路の脇に腰掛けて談話するカップルや家族連れがいたりと、人の声が常に聞こえる賑やかな場所でした。
地下通路に流れている音で心が休まる、居心地の良い空間を作り出していた好例ですね。
この地下通路、現在は音も水も流れていません。そのせいか滞在する人はおらず、大変静かで寂しい印象を受け、出来れば再び活気溢れる場所になってほしいと願っています。
「滝廉太郎記念館」もサウンドスケープデザインが使われている
その他の例ですと、大分県竹田市に「滝廉太郎記念館」などがわかりやすい例です。
瀧廉太郎は日本人にはおそらく馴染みの深い「お正月」や合唱曲として有名な「荒城の月」等を作曲した作曲家。
「滝廉太郎記念館」は彼の旧宅を利用し、1992年にオープンしており、実は中にある庭園に、正にサウンドスケープデザインの考え方で様々な工夫がなされています。
庭園整備の計画を受け持ったのは、サウンドスケープ研究家の鳥越けい子氏。鳥越氏は「訪れる人が廉太郎が当時聞いていたであろう音風景を少しでも追体験できるような音環境を設計する」というコンセプトの元、庭園設計を行いました。
庭園のモウソウチクからは、葉がカサカサと擦れる音。柿の木の実を食べに来たスズメはチュンチュンとうれしそうに鳴きます。飛び石の上を置いてある下駄で歩くと、カランカランと小気味の良い音が響きます。
このように、様々な工夫により、当時の「音環境」が再現されているのです。
廉太郎を慕い訪れた人々は、様々な音とともに、実際には知らないはずの廉太郎が過ごした時代に思いを馳せることができる事でしょう。
このように、サウンドスケープの概念を使う事で、音による「情報の補強」ができ、顧客体験をより豊かなものにする事ができます。
滝連太郎記念館については、実際に足を運んでレポートしたいと思っていますので、のんびりとお待ち下さい!
※画像はイメージです