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新型コロナウイルスに関する緊急事態宣言が全面解除され、テレワーク(リモートワーク)から出社へと切り替える企業も出てきた。とはいえ、すべての面ですぐに「元通り」とはならないであろう。例えば、新人や幹部向けの社内研修を実施すべきか、頭を抱えている研修担当者は多いはずだ。
研修会場は「3密」となるリスクが高い。そこで力を発揮するのが、ウェビナー(WEBセミナー)方式の社内研修だ。筆者は毎年春に「マーケティング視点を仕事に生かす」というテーマで、新人研修の講師を務めることが多い。今年は現時点で開催の見通しが立たない研修もあるが、いくつかについてはウェビナー方式で実施した。
本稿では、筆者の経験から、ウェビナー方式の社内研修成功のためのポイントを、講師や運営スタッフといった「運営側」の視点で導き出したい。
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ネット環境を整える
インターネット環境の整備は、ウェビナーの「一丁目一番地」だ。
講師にしても参加者にしても、通信が不安定だと音声が頻繁に途切れてしまう。このような状態では、そもそもウェビナーは難しい。性能の良いWi-Fiルーターに変えたり、事前に開催時間における実際の通信速度を確認したり、といった対応が求められる。
ウェビナーにおいては、講師の画面共有で、スライドを表示させることが一般的だ。通信が不安定だと、ページを送ってもスライドが変わらないことも起こりうる。この場合、受講生側は、同じスライドでずっと説明しているのだと勘違いしてしまう。実際、筆者が講師を務めた際、一度このトラブルが起こり、数分経ってから気が付いたケースもあった。改めて解説しなおすため、かなりの時間ロスが生じた。
ビデオ会議システムを活用する
ウェビナーのためのツール選定は、入念に行いたい。ビデオ会議システムを利用するのが一般的で、筆者はGoogle MeetやZoomを使った経験がある。
筆者が講師を務める社内研修は、10~30人程度であることが多く、基本的には双方向性のある(インタラクティブな)内容としている。この場合、参加者が誰かを全員把握できることもあり、第三者にURLが流出するリスクは低い。加えて部屋にパスワードを設定すれば、問題となった「Zoom爆撃」の可能性はほぼなくなる。
30人を超えるような大人数での研修の場合(ウェビナーイベントの場合も)、参加者の音声が入らないタイプのサービスも選択肢に入る。参加者は視聴+チャットのみの参加となり、双方向性は小さくなるが、参加者のマイクがONになって雑音が入るという事故は防げる。
ビデオは全員ONに
参加者側のビデオについては、全員ONにすべきだ。これにより、双方に適度な緊張感が生まれ、研修がスムーズに進む。
参加者のマイクについては、講師側からのアナウンスがない限りはOFFにしておくべきだが、この状態でビデオもOFFにされると、リアクションが読めず非常に進行しづらい。ビデオをONにすることで、参加者が理解しているのかそうでないのかが、おおよそ分かるため、進行する上で大きな安心感が得られる。
講師は参加者の名前を把握する
筆者は、通常の社内研修で講師を務める際、参加者の名簿を手元に用意する。それをもとに指名し、どんどん質問していく。これにより、参加者側に良い緊張感が生まれ、かつ主体的に研修に参加してもらえるようになる。
ウェビナー方式でも、これは有効だ。アイスブレイクの際や質問を投げかける際、指名して回答してもらう。これにより、参加者にとっては通常の研修に近い体験となる。
筆者が今回参加者に対して実施したアンケートでは、「対面と変わらずコミュニケーションもとれて、非常に満足した研修だった」といった回答があり、オンラインの壁を取り払うことはそれほど難しくないと感じた。
適宜ワークと休憩を入れて集中力を保たせる
新人研修の場合、丸一日の仕事となることも多い。したがって、ウェビナー方式の場合、参加者に集中力を保ってもらうための工夫が求められる(オフラインでも同様だが)。
筆者は、事前に「3C分析」「SWOT分析」「ペルソナ設定」「カスタマージャーニーマップ」といったマーケティングのワークシートを、参加者に共有。1ワークにつき30~40分間ほど時間をとり(場合によっては20分間のこともある)、シートを埋めてもらう形でワークを進めた。
以下の表は、筆者が実際に丸一日研修講師を務めた際の、タイムテーブルである。座学やワークの時間においては、ビデオ会議システムに標準装備されているチャット機能を用いて、質問を常に受け付ける。無料でも利用できる質問ツール「slido(スライドゥー)」を活用するのもよいだろう。集まった質問については、区切りの良いタイミングで一気に回答する。
社内研修「マーケティング視点を仕事に生かす」のタイムテーブル(丸一日バージョン)
項目 | 時間 |
自己紹介・アイスブレイク | 9:30~9:45 |
座学(マーケティングの基礎) | 9:45~11:00 |
休憩 | 11:00~11:15 |
ワーク(3C分析) | 11:15~11:45 |
ワークの発表 | 11:45~12:00 |
休憩 | 12:00~12:15 |
ワーク(SWOT分析) | 12:15~12:45 |
ワークの発表 | 12:45~13:00 |
昼休み | 13:00~14:00 |
座学(マーケティング視点を仕事に生かす) | 14:00~14:45 |
ワーク(自分の業務におけるペルソナを設定) | 14:45~15:15 |
ワークの発表 | 15:15~15:30 |
休憩 | 15:30~15:45 |
ワーク(自分の業務におけるカスタマージャーニーマップ作成) | 15:45~16:25 |
ワークの発表 | 16:25~16:40 |
まとめ・感想を発表 | 16:40~17:00 |
終了 | 17:00 |
また、ワークの後は何人かに発表してもらうのだが、発表後は10~15分程度の休憩をはさみ、脳を休めてもらった。参加者からは「ワークと休憩と座学でメリハリがあり、集中力を保てた」と好評だった。
注意点としては、ワークシートのフォーマットだ。プリンターが自宅にある人は少なく、ある研修においてPDFで配布したところ、参加者から「Excelやパワーポイント等の記入できるフォーマットでもらえないか」との声があった。参加者の環境にもよるが、ワーク実施にあたっては、記入できるフォーマットで統一し、共有した方がよいと感じる。
スライドをしっかりと作りこむ
オフラインの研修の場合、スライドの流れが少々悪くとも、その場で無理やり文脈を整えることもできるかもしれない。しかし、ウェビナー方式においては、途中で軌道修正することが非常に難しい。
したがって、スライドは事前にしっかりと作りこんでおく必要がある。もちろん、リハーサルも必須だ。リハーサルをする中で、必ず「あれ、なんだか流れが悪いぞ」という箇所が出てくる。その部分を修正して、再びリハーサルする。これを繰り返してはじめて、参加者側にストレスのないウェビナーが実現する。
ゆっくり、はっきり話す
講師と参加者が同じ空間にいれば、多少早口でもなんとなく意図は伝わることが多い。しかしウェビナーにおいては、確実に参加者が置き去りとなってしまう。
回線が常に安定しているとも限らない。講師はいつもよりゆっくり、はっきり話すことを常に心掛けたい。口の動きを大きく、はっきりさせることを意識すると、うまくいく。
デメリットは思いのほか少ない
まとめると、ウェビナー方式の社内研修を成功させるためのポイントは、以下のとおりである。
- ネット環境を整える
- ビデオ会議システムを活用する
- ビデオは全員ONに
- 講師は参加者の名前を把握する
- 適宜ワークと休憩を入れて集中力を保たせる
- スライドをしっかりと作りこむ
- ゆっくり、はっきり話す
筆者としても、ウェビナー方式で研修講師を務めたのは、今春が初めてだ。しかし、参加者アンケートを見る限り、オンラインのデメリットは思いのほか少なく、実施についてそれほど大きなハードルはないとも感じる。大企業の場合、全国から本社に集まって研修に参加することは、感染症対策の観点でリスクが高い。また、移動コストもかかる。ウェビナー方式だと、これらの課題をクリアできる。企業にとって様々なメリットがあるウェビナー方式の研修。リスクマネジメントの観点でも、導入を検討するに値すると感じる。