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採用活動においてSNSを活用している企業も増えてきました。採用オウンドメディアのコンテンツを拡散させる手段として、または求職者のエンゲージメントを高めるための手法としてSNSは活用されます。しかし、特に目的を設定せず「流行っているから」「学生が利用しているものだから」という理由で手を出してしまいがちなものでもあります。採用におけるSNSの活用の仕方について今一度考察してみましょう。

(コンテンツマーケティングとSNSについてはこちら)SNSマーケティングの基礎 コンテンツマーケティングでSNSはどう活用できるか

「採用」という観点から見たSNSの現在地

上記「SNSマーケティングの基礎」の記事でもご紹介しましたが、国内のSNSの利用状況について少しだけ振り返ります。

総務省が平成29年に実施した調査によると、「インターネットで利用した機能・サービス」のなかで、「ソーシャルネットワーキングサービスの利用」を選んだ人の割合は全体で54.7%でした。細かく見てみると、20~39歳では7割を超え、40~59歳では5~6割、60歳以上になると1~3割で推移するようです。このように見ると、大学生の新卒採用はもちろん、入社から数年経ち即戦力として考えられる20~39歳をターゲットにしたSNSの活用は効果的と言えるでしょう。

サービスごとの利用者数についても振り返ります。それぞれのSNSの利用者数はTwitterが4500万人、Instagramが3300万人、Facebookが2600万人となっています。日本の人口から考えると、Twitterは3人に1人、Instagramは4人に1人、Facebookは5人に1人が利用していることになります。

総務省の統計によると、Twitterに関しては10~20代では6割前後が利用していますが、30代以上になると3割以下に落ち込みます。一方、30代のTwitter利用者は30%ですが、Facebookは51.7%と約半数が利用しています。Instagramは20代の利用者が圧倒的です。それだけでなく、興味深いのは女性の利用者の割合は男性に比べ高いという点です。これはInstagramにのみ見られる傾向です。

また、海外の採用とSNS関連の文献ではLinkedInについて言及するものもありました。しかし、「Global Digital Report 2019」によると、LinkedInの日本での普及率は2%と、アメリカ59%、オーストラリア56%と比べて低いです。そのため、今回はFacebook、Twitter、Instagramの3つに焦点を当てて解説していきたいと思います。また、採用関連のソフトウェアを提供するクロアチアの「TalentLyft」のブログ記事を参考にします。

Facebook

まずは、Facebookについて見ていきます。TwitterやInstagramはフランクな交流の場のイメージがある一方、オフィシャルな交流の場というイメージが強いSNSです。

メリット

Facebookを採用活動で活用するメリットは、20~30代の幅広い年齢層が利用していることです。また、転職をする気がない「転職潜在層」にもアプローチすることができます。

デメリット

デメリットは、活用の難易度の高さです。先ほどメリットとして挙げた「幅広い年齢層にアプローチできる」という点は、見方を変えれば「明確な採用ターゲット、戦略が確定していなければ、ぼやけたメッセージになってしまう」という懸念もあります。

また、採用に特化したコンテンツが並べられている採用広告媒体とは違い、コンテンツの競合性は激しいです。それだけに、採用マーケティングの戦略をはっきりとさせ、それを反映させた求職者に刺さるコンテンツを用意できれば、より自社を差別化させることにつながるでしょう。

(採用マーケティングについてはこちら)採用マーケティングとは? 採用にマーケティング視点を取り入れる方法

活用のコツ

TalentLyftのブログ記事には、Facebookを活用するポイントが10個並べられています。

1.Find potential candidates
2.Create a Facebook page
3.Share your company culture
4.Create a job ad
5.Promote your job ads for free
6.Promote your job ads on a small budget
7.Use Facebook Live
8.Create a job tab
9.Communicate successfully
10.Share specialized recruiting content

1.潜在的な候補者を見つける
2.採用に特化したページを作る(公式ページとは別)
3.自社の文化を共有する
4.求人広告を作成する
5.無料で求人広告を宣伝する
6.小さな予算で求人広告を宣伝する
7.Facebook Liveを使う
8.ジョブタブを作る
9.うまくコミュニケーションを取る
10.専門的な採用コンテンツを共有する

Facebookではプロフィール欄に学歴や居住地、職種などを記載する欄があります。それらについて検索し、自社が求めるペルソナに近い人物を見つけることができます。見つけたからと言って露骨にスカウトするのは得策ではありません。その人物が転職を考えている層とは限らないためです。その人物にとってノイズにならないコンテンツを用意し(例えばその人の仕事に役立ちそうな情報をまとめたコンテンツなど)、「もしよければ見てみて」といった温度感でシェアするのはよいでしょう。

また、企業の公式ページとは別に、採用専用のページを作ることが理想的です。なぜならば、顧客に対するメッセージと求職者に対するメッセージは異なるためです。

実際のコンテンツは企業の文化が伝わるような写真を掲載するのがよいでしょう。そのほか、記事では「面接」「選考書類」などをテーマにしたコンテンツでも、漠然とした内容ではなく「実際にその企業の状況に即したコンテンツ」を用意することが大切だと述べています。例えば一般的な面接のコツを伝えるのではなく、「自社の面接を受けるときのコツ」と具体的な内容である必要があるとのことです。

また、実際のオフィスを動画で紹介したり、求職者の質問に答えたりするライブ配信「Facebook Live」は、自社への興味度が高い求職者には有益なものになりますが、それ以外の求職者にはあまり刺さりません。応募するための最後の一押しコンテンツと考えた方が良いでしょう。

また、Facebook上で求職者から投げられた質問やコメントにはなるべく早く答えましょう。候補者体験を高めるためにも重要なことです。

(候補者体験についてはこちら)Candidate Experience(候補者体験)とは? 採用において候補者の満足度を高めるコンテンツを考える

コンテンツ例

GoogleのFacebook採用ページ「Life at Google」より

GoogleのFacebook採用ページ「Life at Google」には、Googleの社員紹介やプロジェクト紹介のコンテンツへのリンクが共有されています。その中の一つには、Googleの技術的な部分のエキスパートであるgTech teamで働くことを解説した動画が紹介されています。このように、自社の事業にフォーカスした専門的なコンテンツは求職者にとって有益なコンテンツとなるのです。

Twitter

TwitterはFacebookに比べ、より気楽なコミュニケーションの場として活用されています。採用における活用の仕方はどのようなものでしょうか。

メリット

Twitterの魅力はFacebookに比べ、オフィシャルな空気感というよりはプライベートな雰囲気があるSNSだと言えます。求職者がどのようなツイートをしているか、また「いいね」の欄にどのようなツイート、コンテンツがあるか見ることで、その人の考え方や趣向が分かります。また「フォロー」「フォロワー」といったエントリーよりもハードルが低い関係性で求職者とつながることができるでしょう。

デメリット

Twitterは文字制限が短いため、伝えたいことをまとめる難易度は高いです。また、次々と新しいツイートでタイムラインが埋まっていくため、コンテンツの寿命は比較的短いです。また、Facebookと違い匿名性が高いSNSでもあるため、匿名のアカウントを使用している求職者とはコミュニケーションがとりにくい場合があります。

活用のコツ

活用するうえでは、「ハッシュタグ(#)」を有効的に活用しましょう。筆者が調べてみたところ、新卒採用であれば現在はシンプルな「#就活」「#インターン」といったものから、「#21卒」「#22卒」というように卒業年のものがあるようです。このように、ハッシュタグを活用することでツイートが発見されやすくなります。

また、自社へのエンゲージメントを高めるために、リツイートやコメント、「いいね」を活用することも重要です。ハッシュタグで就活に関するツイートを検索し、リツイートなど何かしらのアクションをすることで、求職者のエンゲージメントを高める可能性があります。また、「このツイートは自分のためのものなのかな」と思わせるようなパーソナライズされたツイートをすることも重要です。逆に、避けた方がいい行動はダイレクトメッセージです。エンゲージメントが高まっていない状態でイベント参加を促すようなダイレクトメッセージを送ってしまうと、求職者は嫌悪感を覚えてしまうでしょう。

コンテンツは「見やすさ」「短さ」を意識しましょう。膨大な量のコンテンツが次々とタイムラインに流れるため、一目見て、または短い時間で内容が分かるコンテンツでなければなりません。インフォグラフィックなどを活用すると良いでしょう。

また、アカウントのフォロワーを増やすことは、求職者とのつながりを増やしていくという観点で大切なことですが、それが最終目的化しないように気をつけましょう。Twitterだけではないですが、SNSを運用する目的はあくまで求職者が「この企業で働きたい」と思い、イベント参加など何かしらのリアルの行動を取ってもらうこと。フォロワーが増えると嬉しく、「就職先として人気があるのではないか」と安心してしまいがちなので、その点は注意しましょう。

コンテンツ例

音楽ストーリーミングサービスの「Spotify」の採用に特化したTwitterアカウント「Life at Spotify」は「見やすさ」という観点で大変参考になります。伝えたい内容を文章で表現するのではなく、イラストと音で表現しています。

「Life at Spotify」より

上図は一例ですが、社員にSpotifyの魅力を語ってもらう動画となっています。音声を提供する企業らしく、動画ではなくイラストを交えた音声で伝えています。動画時間も1分と、長すぎない適切な時間です。

Instagram

最後に、画像を前面に出したインスタグラムの採用における活用のポイントについて見ていきます。

メリット

TalentLyftのブログ記事によると、他のSNSに比べInstagramを採用媒体として利用している企業は少ないようです。すなわち、競合が少ないという点がメリットに挙げられます。

デメリット

画像を活用するSNSのため、クリエイティブ力が求められます。その分、難易度は高いです。また、前章でもお伝えした通り、主な利用層は20代です。そのため、それ以外の年代層の求職者とつながる手段としては適切でないと言えます。

活用のコツ

Instagramのホームページによると、90%のアカウントが企業のアカウントをフォローしているようです。TalentLyftはブログにて、「Instagramで商品・サービスについてエンゲージメントが高まっている人を、潜在的な求職者にすべきだ」と主張しています。すなわち、Instagramに関しては採用アカウントというよりも、「企業が普段運用しているアカウントで採用に関するコンテンツを出していく」という方法も考えられるようです。

また、画像や動画のクオリティが前面に出るSNSという性質から、クリエイティブな職種の募集をする際の一つの採用指針として活用する方法もあります。

コンテンツ例

デジタルマーケティングに関するソリューションを提供する米国の「HelloWorld」のインスタグラムのアカウントでは、同社ホームページで配信しているホワイトペーパーについて宣伝するなど、コンテンツを拡散する方法でも利用されていますが、同社の社員を紹介するコンテンツが数多く用意されています。このように、顧客にとって有益な情報を発信するとともに、顧客を潜在的な求職者とみなして社内の雰囲気を伝えるコンテンツも配信しています。

「HelloWorld」のInstagramアカウントより

それぞれの特徴を知ったうえで活用する

採用におけるSNSの活用方法について見てきました。冒頭でもお伝えした通り、「なんとなくみんなやっているから」という理由だけで活用を始めるのではなく、「なぜ活用するのか」「目的は何か」といった点をはっきりさせましょう。その上で、それぞれのSNSの特徴を押さえておくことが重要です。SNSを活用し、求職者のエンゲージメントを高めましょう。