薩摩半島から南へ約60キロの海に浮かぶ黒島(鹿児島県三島村)を訪れました。外周20.1km、人口わずか174人のこの島は、周囲が断崖絶壁。島全体が山のようになっており、平地がほとんどありません。また、太平洋戦争末期の1945年、沖縄へ向かう特攻機が相次いで不時着したことでも知られます。
島内に飲食店や小売店は一切なく、釣り客などを受け入れる民宿がいくつかあるのみ。ネットや携帯電話も、海付近や見通しの良い丘の上を除き、圏外です。目立った産業はなく、島民らは牧畜や農業を細々を営んでいます。
こう書くと読者の方は「なんて過酷な島なんだ」と思われるかもしれませんが、私が実際に滞在した感想は異なります。空気はきれいで、畑で採れたばかりの野菜で作った食事は大変美味。何よりネットが繋がらないのが良いですね!
ちなみに、肉や加工食品も、電話一本で、鹿児島市内のスーパーが、週に4便のフェリーに乗せてくれます(最短で翌日着!)。不便さはあるものの、それが心地よく感じられる暮らしなのです。島に高校がないため、中学を卒業したら全員島を出ます。しかし、驚くほど多くの島出身者が、定年退職後、再び島に戻ってくることからも、ある意味での暮らしやすさを表しています。
私が注目したのは、鹿児島市内のスーパーのサービスです。島民174人の島から電話で注文を受け、わざわざ発送。売り上げがどれだけあるのか心配になりますが、実は島には一定のマーケットがあるのです。鹿児島県の島の数は605で、長崎県の971に次いで全国第2位。黒島だけでは174人分ですが、有人島は32もあり、人口は合計十数万人。橋で本土と繋がっている島もあるものの、離島だけでも実は相当な規模のマーケットが存在するのです。
ビジネスを考える上で、マーケットを考えること、そしてニッチであることは、最も重要な要素。まだまだ日本にも、ブルーオーシャンは残っているはずだと、心地よい夜風に吹かれながら感じました。(株式会社クマベイス 代表取締役CEO 田中森士)