ジャーナリズムの視点を持ったコンテンツを自社プラットフォームで配信する「ブランドジャーナリズム」。本ブログでは以前、「ブランドジャーナリズムとは ジャーナリズムの視点を加えたコンテンツで信頼を勝ち取る」の記事で基本となる考え方を説明しました。今回は、米国のソフトウェア企業、Nutanixが展開しているオウンドメディアの事例から、ブランドジャーナリズムの展開方法を考察します。今回の記事は、Content Marketing Institute(CMI)の記事「How One Brand Grew a Massive Audience by Building a News Site [Example]」を参考にしています。

コンテンツ・マーケティング・アワードで高評価を得た「The Forecast」

Nutanixが運営するオウンドメディア「The Forecast」は、CMIが開催した2020年のコンテンツ・マーケティング・アワードにて、高い評価を得ました。2019年5月に開設し、これまで約40万人のユニークユーザー、60万ページビュー、週刊ニューズレターの購読者は1200人を誇ります。

CMIの記事によると、オーガニック検索からのオウンドメディアの流入は2020年1月には8%でしたが、2021年1月には21%に増加、ターゲットとしているキーワード141件で検索結果上位3位を占め、257件で検索結果1ページ目に表示されるとのことです。つまり、Googleのアルゴリズムにおいて非常に信頼度の高いメディアと認識されているということが言えます。他メディアからのリンク、SNSなど外部からの流入は全経路の18%を占めているそうで、業界的にも信頼度の高いメディアと認識されていることが分かります。

コンテンツ・マーケティング・アワードにて好評化を得た「The Forecast」

専門性を持ったメディアを作る

オウンドメディアで配信されているコンテンツはニューズレターのほか、記事や動画、Podcastです。コンテンツのテーマは「クラウドコンピューティングは公共交通機関をエコスマートな未来へと導くか?」といったソフトウェア企業ならではの知見を生かしたものがあります。それだけでなく、元米国国防長官にインタビューを行った「民間企業は米国の教育システムに投資すべき」という記事では、ネットインフラの課題に触れつつ米国の教育システムの問題点について指摘しています。これらの記事は経済誌に掲載されていてもおかしくないほどのクオリティーです。

編集チームによると、編集の方向性として持っているコンセプトは「生き方やビジネスの方法を変えつつあるアイデアやテクノロジーを探求する」とのことです。この「探求する」という部分にジャーナリズムの視点を感じます。編集チームでエグゼクティブ・ディレクターを務めているJennifer Massaro氏は「テクノロジーの革新と人間の経験の交差点には、語らなければならないすばらしいストーリーがある。The Forecastは時代を記録し、トレンドを定義付け、さまざまな業界のリーダーやチェンジメーカーに取材することで、本物の知見を与える」とオウンドメディアの方向性について説明しています。この姿勢は、メディア企業がニュース媒体を作る姿勢と共通しています。

ここで私たちが学ぶべきなのは、どんな企業であれ専門性を持ったメディアを作れるポテンシャルがあるという点です。自社のノウハウを駆使すれば、ブランドジャーナリズムは実践できるということを同社は示しています。

オピニオンリーダーであろうとする姿勢

同社の大きな特徴としては、Jennifer氏の言葉にあるように、さまざまな業界のオピニオンリーダーに取材を行っている点です。コンテンツにジャーナリズム視点を取り入れるためには、「情報の出所を明確に示す」「客観的であることを心がける」ということが重要になってきますが、社外の第三者に取材を行うことでコンテンツの信頼性を高めています。

コンテンツマーケティングにおいてコンテンツを通してオピニオンリーダーになることは究極の目標ですが、ブランドジャーナリズムは業界のオピニオンリーダーになる可能性も秘めていると言えるでしょう。

ブランドジャーナリズムは地道な手法だが大きな可能性を秘めている

The Forecastの例を見てみると分かるように、本格的にブランドジャーナリズムに取り組むには手間がかかります。取材し、コンテンツを作るという地道な作業を行わなければなりませんが、手間をかけただけ信頼を勝ち取れる可能性が高まります。ブランドジャーナリズムを取り入れたいと考えている企業は、まずは「自社の専門性は何か」というところから考え始めましょう。