Content Marketing World(CMWorld)2019で個人的に最も印象の残ったセッションは、コンテンツマーケターのキャリアパスをテーマにしたセッションであった。登壇したセールスフォースのコンテンツストラテジスト・Amy Higgins氏(@amywhiggins)自身は、さまざまなバックグラウンドを持ちながら現在コンテンツマーケティング業界で活躍している人物。自身の経験やデータに基づく主張は説得力があった。

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コンテンツマーケティング業界の仕事は33%増

「Content Marketing」の検索数は、CMWorldがはじまった2011年以降、上昇の一途。もはや米国においては当たり前のマーケティング手法となっており、例えば2018年のコンテンツマーケティング業界の職のポジション数を見ても、2万3846件と前年比33%増えている

他方、コンテンツマーケティング業界が求めるスキルは多様化しており、事実さまざまなバックグランドを持つ人々が職を求めて業界に飛び込んでいる。一口に「コンテンツマーケター」と言っても、現場レベルでは多くの施策に取り組んでいるのがコンテンツマーケティング業界の現状だ。

「Content Marketer」の求人情報を見ると、採用する側が求めるスキルが多すぎてまさに「カオス」。人物像がよくイメージできない求人票も多い。

同時に、採用される側もコンテンツマーケティング業界就職後にうまくキャリアパスを描けないという課題が生まれている。つまり、意を決して業界に飛び込んだはいいものの、日々の仕事に追われているうちに、気がついたら市場や会社が求める人材からかけはなれていた、ということになりがちなのだ。

ジェネラルとスペシャルの組み合わせ

こうした状況を受けて、Higgins氏はコンテンツマーケティング業界に飛び込んだ後のキャリアパスの描き方を今回のプレゼンで紹介した。

Higgins氏は、コンテンツマーケティング業界で活躍する上で、(入社後に)さまざまなスキルを身につけることは必須であると指摘。その上で、ジェネラリストでもスペシャリストでもなく、「T型人材」を目指せと訴えた。

「T型人材」とはどういうことか。Higgins氏は、「T」の文字を構成する横棒がさまざまなスキルセットを意味し、縦棒がスペシャルなスキルを意味すると説明する。ジェネラルなスキルセットがあれば、コンテンツマーケターとして社内で活躍することはできる。しかしながら、それだけではキャリアパスを描くことは実は難しい。ジェネラルなスキルセットはコンテンツマーケターとして当然のものであり、加えて一つスペシャルなスキルを身に付けることで、個人のブランディングができて市場価値も上がる––。

一般論としては、優秀なコンテンツマーケターとはジェネラリストであろう。さまざまな施策をアジャイル的に試すことが現代マーケティングにおいて求められるからだ。でも、それだけではキャリアが保証されない。これはジェネラリストの同義語に近づきつつあるコンテンツマーケターという職ならではの構造だと感じる。

自身の「T」を見つけよう

Higgins氏は、自身の「T」を見つけようと呼びかける。その流れはこうだ。まず、さまざまなスキルを身につけていく。そして、業界や企業の環境によって異なるが、自らの必要なスキルがそろったのかを確認する。足りない部分があればそのギャップを埋めていく(足りないスキルを身につける)。そこまでできたら自らの興味関心を見つけて、そのスキルを磨いていく。これらを「T」の図に整理しておけば、自らをブランディングする上でも力を入れるべき方向性がクリアになる。

  1. さまざまなスキルを身につける
  2. 必要なスキルがそろったか確認する
  3. 足りない部分があればギャップを埋める
  4. 興味関心を探してそのスキルを磨いていく

実際、CMWorldに登壇するスピーカーたちは、皆コンテンツマーケティングに必要なスキルや知識を一通り持ち合わせている。それに加えて「ジャーナリスティックアプローチ」「パーソナライゼーション」「コンテンツ戦略」といった得意とする1つのドメインが明確になっており、それ「のみ」を打ち出している。スキルがないのに「私の縦棒はこれだ!」と声高に叫ぶ人物は米国には少ない。実力社会、実名社会で責任を持った行動が求められる米国においては、コンテンツマーケティング業界でも自分を大きく見せる行動はご法度なのだ。

これからはソフトスキルも必須

「これからはソフトスキルも必須だ」。Higgins氏はこうも訴える。世界経済フォーラムが発表したレポートによると、2022年には「複雑な問題の解決」「推論」「感情的知能」といったこれまでとは異なるスキルが求められるのだという。これらを念頭に、Higgins氏は「コラボレーション」「スピーチ」「エモーショナル」「積極的傾聴」「好奇心」といった「ソフトスキル」がコンテンツマーケターに求められると強調した。

現代のコンテンツマーケティングにおいては、外部とのつながりやコラボレーション、コミュニティーマネジメント、(イベントにおける)スピーチ力などが求められることは、私自身もひしひしと感じている。ただし、正直に言ってあまり言語化できていなかった。また、「T型人材」についても、ぼんやりとは必要性を理解していたものの、そのフローを示したHiggins氏は、コンテンツマーケティングに携わる人々に寄り添って仕事をしていること感じさせる。業界の健全な発展を願っていることが伝わってきた。

いまだ黎明期にある日本のコンテンツマーケティング業界。米国に学ぶことは本当に多い。
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