新型コロナウイルス感染症の影響により、飲食店だけでなく小売店でも人出が減りました。こうした状況を受け、店舗に商品を卸すメーカーは、新しい販売システムの構築を模索しています。そんななか、最近「DtoC(D2C・Direct to Consumer)」という言葉が取りざたされています。今回はDtoCの意味や関係する業界の動きについて紹介するとともに、DtoCを進める上でのコンテンツマーケティングの活用法と事例について見ていきます。
(BtoB、BtoCのコンテンツマーケティングについてはこちら)BtoBのコンテンツマーケティングはBtoCと何が違うのか?
DtoCとは
DtoCとは「Direct to Consumer」のことを指します。「D2C」と呼ばれることもあります。「消費者に直接届ける」、すなわち、卸売業者小売業者などの中間業者を挟まず、メーカーが消費者にECサイトなどのオンラインを通じて直接商品を届ける仕組みのことを指します。ここで言うECサイトとは、amazonなどのプラットフォームではなく、自前のECサイトを意味します。
注目されている理由
小売店で販売する場合、商品棚のスペースを確保して商品を目立たせなければ、消費者の目には留まりません。その場合、どうしてもプロモーション費用が潤沢な有名メーカーの商品ばかりが陳列されがちでした。しかし、DtoCの場合は、マーケティング手法の工夫次第で、より多くの消費者に商品を届けられる可能性があります。また、消費者からしても中間業者が介入していない分、より安く商品を購入できるケースもあります。
ECサイトの強化という点では、以前からDtoCはある程度の注目を集めていました。それに加え、新型コロナウイルス感染症の影響により、実店舗に人が来なくなったことで、オンラインの体制を強化したいと考えるメーカーが増えてきた結果、DtoCにより大きな注目が集まったのです。
アパレル業界で進む動き
アパレル業界では、このような動きが顕著に見られます。ZARAなどを展開するインディテックス社は2020年6月、来年までに傘下ブランド1000~1200店舗を閉鎖すると発表しました。また、国内のアパレルメーカーでも同様の動きが見られます。例えば、大手のオンワードは同年4月に700店舗を閉鎖することを発表しました。
コロナの影響により、外出を控える人が増えた結果、店舗に出向く人が減りました。外出頻度が減り、ファッションの考え方にも変化が生じた影響もあるでしょう。とはいえ、この2社には共通点があります。それは、実店舗の業績は悪化したものの、ECの売り上げは好調だったことです。オンワードのECサイトでは「スタッフコーディネート」と題して、スタッフが同社の服の着こなしを例示した画像が掲載されています。また、紹介している服の購入ページに遷移できるよう導線もちゃんと設けられており、好調の理由もうなずけます。
DtoCとコンテンツマーケティング
オンワードの例のように、DtoCで成功するためには、コンテンツマーケティングが欠かせません。事例を見ながらDtoCとコンテンツマーケティングについて考えます。
(コンテンツマーケティングについてはこちら)コンテンツマーケティングとは? 定義と仕組み、コンテンツの種類を解説
EC+コンテンツ
ECに取り組んでみたのはいいものの、ただ商品を並べているだけでは消費者は購入してくれません。これは実店舗でも同様です。消費者が商品に興味を持ってもらえるように商品のポップ、家電量販店であればスタッフの商品説明、食品であれば試食など、いろいろな手を尽くして商品の魅力を伝えるはずです。
そんな魅力の伝え方の一つに、「商品使用のイメージを付与する」というものがあります。オーストラリアの小型家電メーカー、Brevilleは調理家電のECにつなげようと、あらゆるレシピを紹介するオウンドメディア「FOOD THIKERS」を運営しています。筆者が閲覧した際には燻製レシピの特集が組まれていました。
記事にはECにつながる導線もしっかり組み込まれています。実店舗でいえば「実演販売」のようなイメージでしょうか。このように、「EC+コンテンツ」の組み合わせがDtoCには不可欠なのです。
(オウンドメディアについてはこちら)オウンドメディアの基礎 成功のポイントとコンテンツマーケティングでの位置づけ
商品にストーリーを加える
皆さんはドラマや映画、ドキュメンタリーを見ているときに、出演者の服装や髪形に憧れを持ったことはないでしょうか。筆者自身、ドラマを見て「かっこいい」と感じた、俳優が着ていたような服を無意識に探していることがあります。ドラマに出演している俳優は、物語のテイストやキャラクターに合わせて服を着ています。このように服と「ストーリー」は相性が良いものなのです。
アパレルメーカーはコーディネートを伝えるコンテンツが多いように思いますが、H&MでおなじみのスウェーデンのH&M Hennes&Mauritz ABは「H&M MAGAZINE」というオウンドメディアを立ち上げています。そのなかの特集の一つ「Everyday Icon」では、H&Mの服を着た世界各国のインフルエンサーのインタビューが掲載されています。それは、さながらどこかで見たことがあるようなドキュメンタリーのテイストです。そして、インタビューに出てきた服が購入できるECにつながるリンクもしっかりと設置されています。
次に、店舗を縮小することに決めたZARAです。昨年、YouTubeの公式チャンネルで短編の3部作のドラマを公開していました。その名も「ZARA SCENES」。このように服に対するイメージをストーリー仕立てで伝えています。そして、動画の説明には例にもれずECのリンクが設置されています。
最近、日本でもドラマ仕立てのCMを目にする機会が増えてきました。ストーリーの力を使う企業が増えてきたということでしょう。
コンテンツの競争が激しくなる
これまで見てきたように、主に店舗での販売に頼ってきた企業が一気にECへとかじを切っています。この流れは、これからさらに強くなっていくことでしょう。その結果、コンテンツが世の中にあふれ、競争が激しくなっていくと予想されます。これからECの展開、または強化をお考えの方は、コンテンツの質の重要性も頭に入れておきましょう。