キャリア観の多様化が進む中、採用活動において給与や福利厚生の訴求のみでは求職者に振り向いてもらえない時代となりつつあります。「ここで働く価値は何なのか」を求職者に伝えることが重要で、成否のカギは「採用ブランディング」が握っています。今回は、採用ブランディングの概要や手法について解説していきます。

(採用マーケティングについてはこちら)採用マーケティングとは? 採用にマーケティング視点を取り入れる方法

採用ブランディングとは

まず、採用ブランディングの定義について確認しましょう。海外では、採用ブランディングは「Employer Branding(EP)」と呼ばれています。採用マーケティング視点を取り入れたソフトウェアを提供するクロアチアの企業「TalentLyft」はブログ記事「What is Employer Brand?」で、「採用ブランド」と「採用ブランディング」を以下のように説明しています。

Employer brand is a term referred to describe the company’s reputation and popularity from a potential employer’s perspective and describes the values the company gives to its employees.Employer Branding is the process of creating and maintaining your company’s Employer Brand.

採用ブランドは、潜在的な求職者の視点から会社の評判や人気を説明するために用いられる用語で、会社が従業員に与える価値を示す。採用ブランディングとは、採用ブランドを作成、維持するプロセスだ。

採用ブランディングで最も重要なのは「この企業で働く価値とは何か」「この企業で働くとどんな良いことがあるのか」を示していくことです。求職者から見て「自分が会社に労働力を与える対価として、会社からどのような価値が与えられるか」といった視点が重要になります。

採用ブランディングは、よく採用マーケティングと混同されてしまいがちですが、採用マーケティングは採用にマーケティング視点を取り入れる手法を指します。いかに採用マーケットにおいて潜在層にアプローチしていくか、アプローチのために必要なコンテンツは何か、キャンディデイトジャーニーマップに落とし込んで考えていくものです。一方、採用ブランディングは、求職者に自社で働く価値を伝える作業ともいえます。結果、採用マーケティングにつながるものでもあり、採用マーケティングの一手法といえます。

採用ブランディングを行うメリット

採用ブランディングを行うメリットは「潜在層に響くメッセージを発信できる」「企業のファンを作れる」「ミスマッチを防げる」という点です。

中途採用市場で見てみると、給与や福利厚生などは、具体的に転職を考えだしてから気にする項目です。しかし、採用ブランディングは「この会社で働く価値」を提示します。それはスキルアップなのかもしれませんし、社会貢献かもしれません。すなわち、転職をまだ考えていない層に向けてのコンテンツを作ることができるのです。新卒採用であれば、学生が今まで興味のなかった業界に振り向いてもらえるきっかけを作ることもできます。

また、中途採用であれば、気になる企業を見つけても、その企業が自分の希望する職種の求人を出しているとは限りません。そこで、求職者を自社のファンにすることでつなぎとめておくことができます。

新卒採用、中途採用に限らずですが、自社への理解が深まれば深まるほど、ミスマッチを防ぐことができます。採用ブランディングを行うことで、応募を大量に集めて選定していく従来型の採用手法ではなく、エンゲージメントが高まっている求職者のみを集め、そこからさらに相互理解を深めていく新しい採用手法が取れることにもつながります。

採用ブランディングの手順

ここからは採用ブランディングの手順について解説していきます。TalentLyftのブログ記事「Employer Branding Strategy in 5 Steps [INFOGRAPHIC]」などを参考にしておりますので、ご興味のある方はこちらもご参照ください。

採用ブランディングのゴールを明確にする

まずは、採用ブランディングを行うゴールを明確にしましょう。「自社への共感度が高い応募者を増やす」「応募後のエンゲージメントを高めていく」「内定承諾率を上げる」。さまざまなものが考えられますが、ここが明確でないと行き当たりばったりの方策になってしまいます。

理想の人材を言語化する(ペルソナ設定)

自社が求める理想の人材を設定しましょう。マーケティングの「ペルソナ設定」の部分です。名前や性別、居住地などの基本情報はもちろんですが、「学歴」「スキル」「キャリアイメージ」「働くうえで重視していること」などが要素として入ってきます。

ここで注意すべきは、理想を追い求めすぎた結果、「完璧すぎる人材」を設定してしまうことです。ここで考えるべきなのは「MUST」と「WANT」の要素です。業務を行う上で必要最低限で必ず持っていてほしい要素を「MUST」、必要だが、持っていれば嬉しい要素を「WANT」と置きます。「WANT」については「入社後に身につけてもらえれば十分な要素」と置いてみるのもよいでしょう。

(ペルソナについてはこちら)コンテンツマーケティングとは? 定義と仕組み、コンテンツの種類を解説

従業員価値提案(EVP)を考える

EVPは、会社が社員に提供できる価値のことです。自社が社員に提供できる価値は何なのかを考えます。給与や福利厚生などはもちろんですが、「会社の理念」「スキルアップできる環境」「社会貢献の一因になれる」など、さまざまなものが考えられます。

採用の3Cを考え、採用ブランディングの核を作る

3Cは自社の事業面での分析に用いますが、採用においても考えることができます。ペルソナ設定で浮かび上がった「Customer(理想の人材)」、EVPで分かった「Company(自社の強み)」、そして「Competitor(採用競合)」で、採用ブランディングにおいての「打ち出すべき核となるメッセージ」を作ります。このメッセージは採用ブランディングにおけるキーワードのようなものです。文章として目に見える形にすることで、コンテンツを作る際のヒントとなります。

発信するチャネルを考える

採用ブランディングが固まった後は、どのチャネルで発信するか考えます。それはオウンドメディアで記事として発信すべきなのか、SNSを用いるべきなのか、ペルソナに合わせて考えます、SNSでも年齢層によって主として使うものが違います。もしかすると、動画にまとめたほうが良いのかもしれません。チャネルは自社の事情、ペルソナの属性によって柔軟に変えていきましょう。

(採用オウンドメディアについてはこちら)採用オウンドメディアとは 事例や成功のポイントを解説
(SNSマーケティングについてはこちら)SNSマーケティングの基礎 コンテンツマーケティングでSNSはどう活用できるか

振り返りを行う

最初に設定したゴールが達成できているか計測しましょう。計測の結果によっては、手法の見直しを行う必要もあります。いまや、数多くの採用管理システム(ATS)があります。自社が行っている採用マーケティングに最も適したものは何か慎重に検討しましょう。

採用ブランディングによってコンテンツの質を上げる

採用ブランディングは採用マーケティングにおいてコンテンツの質を高めるにあたり、重要な要素です。繰り返しになりますが、常に主眼に置いておくべきなのは「会社が社員にどのような価値を提供できるか」という視点です。潜在層にアプローチするために必要なコンテンツは何か、しっかりと考えていくことが大切といえるでしょう。