MarTechにおけるキーノートのプレゼンスライドより、以下同

毎年米国カリフォルニア州サンノゼで開かれている、マーケティングテクノロジーツールのカンファレンス「MarTech」。今年は新型コロナウイルスの影響で、オンラインイベントとして2020年4月21~23日(現地時間)の日程で開かれている。筆者は昨年現地に赴いたのに続き、今回はオンラインで熊本から参加した。

【MarTech2019レポート】ベンダー数が初めて横ばいに マーテック業界はついにピークを越えたのか

マーケティングテクノロジーツール数は8000の大台に

MarTechの目玉が、「Marketing Technology Landscape」の発表だ。これは世の中でサービスが提供されている、マーケティングテクノロジーツールをマッピングした図のこと。「カオスマップ」とも呼ばれる。

MarTechでは2011年から毎年集計してツール数を発表。2011年は150ほどだったツール数は年々増加。2014年には1000に、2017年には5000に到達した。2018年から2019年にかけては微増(6800→7040)にとどまったが、今年は一転して急増。増加率は前年比13.6%となり、ツール数はついに8000の大台に到達した

もう少し内訳を詳しく見てみよう。昨年から615のツールが消えており、チャーンレートは8.7%。また、1575のツールが新たに追加されていることから、5つに1つのツールが今年初登場したことになる。これらの数字は、マーケティングテクノロジーツールの「栄枯盛衰」を象徴している。

ただし、今回のカオスマップは、新型コロナの感染拡大が広がる前に集計されたものだ。したがって、現在の状況を正確に表しているかどうかは分からない点は留意しておく必要がある。

「データ」と「マネジメント」でツール数が大きく増加

続いて、カテゴリー別のツール数の変化を見ていこう。前年と比較して、「データ」が25.5%増、「マネジメント」が15.2%増となっている。それぞれのサブカテゴリ―はどうか。「データ」のうち、「ガバナンス、コンプライアンス、プライバシー」関連ツールが68%増で、「マネジメント」のうち、「プロジェクト管理、ワークフロー管理」が41%増えている。

コンプライアンスやプライバシーのツールが急増しているのは、2018年に施行されたGDPR(一般データ保護規則)が背景としてあるとみられる。プロジェクト管理やワークフロー管理のツールについては、コンテンツマーケティングやインバウンドマーケティングにおいて必須であり、ここ数年トレンドとなっているものだ。なお、個別の注目ツールについては、また別の機会に紹介したい。

「統合」が進むマーケティングテクノロジーツール業界

8000の大台に乗り、ユーザーサイドとしては何をどう選べばよいか分からないケースも出てきている。一方で、実はマーケティングテクノロジーツール業界は、ある意味で「統合」が進んでいる。インストール数で見ると、10ほどのプラットフォームが最も多く、人間で言うと「頭」に位置する。それに100ほどのカテゴリーリーダーとも呼べるツール群が続き、こちらはある意味「胴体」。それらとは別に、ユーザーが好みに合わせて選択するような、分野特化型の小さなツールたちが無数に存在する。

米国では、ツールをブロックのように見立て、それを積み重ねていく概念を「Marketing Stack(マーケティングスタック、以下Stack)」と呼ぶ。戦略を立てた上で、どのようなツールが必要なのかをマッピングしていくわけだが、近年のトレンドはプラットフォームを一つ選択し、それにいくつかのツールをAPI連携していく形で構築したStackだ。

経営基盤の弱いツールベンダーは、ユーザーからすればいつ市場から撤退されるか分からない恐怖がある。結果、サービスやAPI連携が充実したプラットフォームをベースとし、そこからStackを組んでいく方法が最も確実と考えるユーザーが多いと考えられる。この流れは当面続くであろう。

新型コロナでマーテック業界はどこへ向かうのか

新型コロナはマーテック業界にも大きな影響を与えている。あらゆるビジネスが縮小している以上、少なくとも短期的にはツールの需要は減ることが予想される。しかし、MarTechのチェアマンを務めるScottは、これを「チャンス」とも考えているようだ。

Brinker氏は、今後ビジネスのデジタル化が加速すると予想。加えて、景気後退局面において、効果測定が可能なマーケティングの価値が一層高まるとみる。また、比較的安価なツールについては、プラットフォーム・エコシステムの中で栄えていくだろうと指摘。これらを業界にとっての「追い風」と表現した。

一部の「中途半端」なツールにとっては、厳しい時代が到来する。しかし、プラットフォームもしくはニッチなかゆいところに手が届くようなツールにとっては、「追い風」が吹くのだろう。2021年のカオスマップは、これまでにないほど大きく塗り替えられるのかもしれない。