メルマガを配信しているものの、効果が出ないとお悩みのコンテンツ管理担当者の方も多いのではないでしょうか。魅力的なコンテンツとする手法の一つが、物語を編む「ストーリーテリング」です。メールマーケティングの管理ツールを提供するウクライナの企業「SendPlus」のブログ記事では、メールマガジンにストーリーテリングを施す手法を紹介しています。本稿ではブログ記事も参考に、事例も交えながらストーリーテリングをメルマガに取り入れる方法を探ります。
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(ストーリーテリングについてはこちら)ブライダル業界に学ぶ物語の力 ストーリーテリングの事例を紹介
なぜメルマガにストーリーテリングが必要か
メルマガの登録者(サブスクライバー)は、個人情報の一つであるメールアドレスを企業側に提供しています。「自ら個人情報を提供する」というステップを経ていることから、SNSのフォロワーよりも配信企業との距離が近いと考えられます。
一方で、直接的な商品の宣伝など、メルマガの内容が「刈り取り色」の強いものとなってしまいがちです。「新商品の情報はいち早く知りたい」という登録者も一定数いるでしょう。しかし、全ての登録者が「新商品が出れば即買いする」というほどエンゲージメントが高い状態にあるとはいえません。むしろ、それほどエンゲージメントの高い登録者は少数でしょう。メルマガは継続的に配信するもの。だからこそ、継続的に登録者のエンゲージメントを高めるコンテンツを届ける必要があるのです。
エンゲージメントに差はありますが、メルマガの登録者はその企業について少なくとも興味があるといえます。よりエンゲージメントを高めてもらうため、登録者に自社について仲間意識を持ってもらうこと、サービスについて特別感を持ってもらうことが大切です。「このサービスでないとだめなんだ」と登録者に思ってもらえるようなメールを送り続ける必要があります。
ここで重要となるのがストーリーテリングです。ストーリーには人の心を動かす力があります。免許取得や更新の際、「事故を起こした主人公に起こる出来事」をストーリー仕立てに伝えるビデオを見たことがある方は多いのではないでしょうか。どれだけ大きい事故の件数の数字を見せても、「安全運転をしよう」という気持ちにはなかなかなれません。一人の人物にフォーカスしたストーリーを見せる方が、より強いメッセージとして伝えることができるのです。メルマガで定期的にエモーショナルな情報を伝えれば、登録者はよりその企業のファンとなります。
ストーリーテリングの型
ストーリーテリングを構成する要素としては以下の3つが挙げられます。
- 主人公
- 課題
- 解決する姿
ストーリーテリングの典型的な型は、主人公が抱えている課題を明示し、解決する姿を描いていくというものです。例えば、企業の新サービス開発をストーリーにすると仮定しましょう。以下のように主人公と課題を設定できます。
- 主人公→新サービス開発チーム
- 課題→新サービスが生まれることになった内的、外的要因
ここまで設定し、後は開発の過程を順序立てて描いていきます。開発の過程でも課題がいくつか生まれていると考えられるため、小さな課題を複数描いていくことになるでしょう。
『トイ・ストーリー』や『モンスターズ・インク』などで知られるピクサーのストーリー構成担当を務めていたエマ・コーツ氏は、自身のTwitterで「ピクサーのストーリーテリング22のルール」を明らかにしました。ルールのうち、キャラクターの作り方について次のように明かしています。
- キャラクターの成功よりも挑戦を称える
- あなたのキャラクターはどんなことが得意で、何に安らぎを感じるだろうかキャラクターに反対のことを投げかけ、挑戦させよう
- ストーリーの中の状況やキャラクターと自分を同化させなければならない。状況やキャラクターについて「クール」で片づけてはならない。あなただったらどう行動するだろうか
- キャラクターに意見を持たせよう。受動的なキャラクターは書いているときは好感が持てるかもしれないが、オーディエンスには毒だ
- キャラクターが偶然トラブルに巻き込まれることは良いことだ。しかし、キャラクターがトラブルから偶然抜け出すことは好ましくないことだ
- キャラクターが抱える危機とは何か。キャラクターを応援する理由を与えよう。成功しなかったら何が起こるのかを示そう
- もしあなたがストーリーの中で登場するキャラクターならば、その状況でどう感じるか。正直に語ることで信じられないようなストーリーに信ぴょう性が生まれる
以上のように見ていくと、キャラクターが課題に挑戦する姿に人は心動かされると分かります。自社、あるいは自社の顧客がぶつかっている課題を考えることから始めると良いでしょう。
ストーリーテリングが施されたメルマガ
ストーリーテリングが施されたメルマガの具体的な手法を、事例を交えながら見ていきます。
ウェルカムメール
サンフランシスコを拠点にニュースサイトを運営する「The Hustle」は、ウェルカムメールにストーリーテリングを用いています。ウェルカムメールとは、メルマガの登録者に最初に送るメールです。購読開始に感謝を伝えるメールで、国内では「購読ありがとうございます」と淡々と伝えるものがほとんどだと思います。
一方、同社のウェルカムメールはストーリー調で感謝を伝えています。SendPlusのブログ記事で紹介されていたウェルカムメールの冒頭は以下の通りです。
あなたが登録のボタンを押し、あなたが私たちにメールを送った後、私たちのオフィスにある小さなブザーが鳴りました。社内のチームにそれが聞こえ、みんなが笑顔になった。オフィスマネジャーは拍手し、オペレーション担当者は腕立て伏せを始めた(理由は分からないが、ブザーが鳴るたび彼は腕立て伏せを始める)。(筆者訳)
以上のように、The Hustleの一員として登録者を迎え入れています。筆者も登録してみましたが、驚いたのは購読のサンクスページに同社の社員が歓迎のメッセージを伝えていく動画が掲載されていたことです。同時に、過去の同社の歩みをストーリー調で伝えるメッセージも掲載されていました。同社のウェルカムメールによると、登録者は150万人以上にものぼるとのことです。成功事例として大いに参考になる事例といえるでしょう。
顧客の成功体験を語る
顧客の声は企業の宣伝よりも信頼される傾向にあります。しかし、複数の顧客の声を羅列するだけでは魅力的なコンテンツとはいえません。数も大切ですが、一人の顧客にフォーカスし、「どんな課題があったのか」「課題解決のためサービスはどのように役立ったか」をストーリー仕立てで紹介したほうが、登録者の記憶に残る可能性が高くなります。
社員インタビュー
顧客の声だけでなく、社員の声を届けることは、登録者に仲間意識を持ってもらうことにつながります。ただプロフィールを載せるだけでなく、ストーリー性を持たせることが大切です。「なぜこの企業で働こうと思ったのか」「これまでどんな困難があり、どう克服してきたか」などについて描きましょう。採用コンテンツにも転用できます。
ショートパンツを中心に扱うアパレルブランド「Chubbies」は、同社のモデルを務めた人物のインタビューを配信しました。インタビューを通じて「自分を信じろ」というメッセージを伝えています。
同社は「Foundation 43」というミッションを掲げています。顔には43の筋肉があり、私たちはこれらの筋肉を使って感情を表現しているとのことです。同社は43の筋肉を自由に使い、あらゆる感情を表現できる社会を目指しています。つまり、自由にありのままの自分の感情でいられる社会を目指しているのです。メルマガの内容も、ミッションにつながるところがあります。ストーリーが自社のミッションに関連するものとなるよう、コンテンツ作りの際に意識すべきといえます。
オリジン(起源)ストーリー
オリジンは「起源」という意味です。オリジンストーリーでは、会社の原点を語ります。企業が成長していくまでの物語や、なぜ存在しているのか、企業の「そもそも」のストーリーを描きます。
米国の紳士服ブランド「Brooks Brothers」は、創立100周年の際にブランドの成り立ちを物語形式で振り返るメールを配信しました。
同社の事例のように、歴史を振り返るストーリーは、企業の周年記念メールとして配信できます。ほかにも、自社の理念を伝えるストーリーであれば、普段から定期的に配信しても良いでしょう。
サービスの背景を描く
サービスの背景にあるストーリーを語ります。描くのは、商品やサービスへのこだわりです。そのほか、ある社員を主人公にして一日の動きを描くのも良いでしょう。
肌触りの良さにこだわった下着やルームウェアを提供する「MeUndies」のメルマガでは、繊維の生産方法や製造工程などをストーリーで伝えています。
少しの工夫でメルマガの魅力は増す
メルマガは、単にサービスについて宣伝するためだけの媒体ではありません。登録者のエンゲージメントを高め、自社のファンになってもらうことが一番の目的です。ストーリーテリングは、メルマガを魅力的にするのに有効な手法といえます。自社のメルマガ戦略について見なおしてみてはいかがでしょうか。