信頼性の高いコンテンツを作る上で重要なのが「数字」です。データなどの数字を使うことで、客観性のあるコンテンツとなります。しかし、数字を多用しすぎるのは考えもの。お堅い印象のコンテンツとなり、人間味が薄れてしまうこともあるからです。今回は、ストーリーテリングに取り組む際、数字とどう向き合っていけば良いのか考察します。

情報に客観性を持たせたい場合は数字を使う

ストーリーに全く数字が必要ないかといわれると、決してそんなことはありません。ストーリーの有無にかかわらず、コンテンツには正確さが求められます。コンテンツに客観性を持たせるためには、数字が必要になってくる場面もあるでしょう。例えば「大きな犬」といった表現一つでも、大きいには人それぞれ基準があります。形容詞をなるべく避け、「体長1メートルの犬」と数字で表現することで、客観性のあるコンテンツとすることができるのです。

正確性を担保する数字ですが、多用しすぎると情報がぼやけてしまうこともあります。個人的にはこれを「ストーリーテリングのパラドックス」と呼んでいます。

例えば、最近のウクライナ情勢など、戦争や災害ではインパクトのある数字が次々と報じられます。犠牲者数や負傷者数、個人の寄付金額などがその一例です。実際、今回のウクライナ情勢においても、多くの日本企業がホームページ上で自社の人道支援、主に金銭面を強調して説明しています。

数字は一時のインパクトを与えるのには効果的でしょう。しかし、人々の記憶には残りにくい。今回のウクライナ情勢でも、どの企業がいくら寄付したか一つでも覚えている方は、ほとんどいないのではないでしょうか。

危機を前に企業はストーリーを語っていた

ロンドンに本拠を置く会計事務所、グラントソントンのCEOはホームページ上でウクライナ情勢に関する声明を発表しました。声明では、一人の社員に焦点を当て、ストーリーを語り、早期の戦闘終結を願っています。

「優秀な同僚の一人で、ウクライナのキーフ(キエフ)出身のリタ・タバフさんと最近話をした。話は彼女の生い立ちや母国の人々のことに加え、グラントソントンのウクライナ事務所の勤勉なメンバーのことにも及んだ」

グラントソントンのCEOのメッセージ

新聞は、何か非常事態が起これば、社会面で一人の人物にフォーカスしたストーリーもの(業界では「人もの」と呼びます)を掲載します。個人のストーリーを伝えることで、非常事態下でのメッセージを強く伝えられるためです。

数字は、客観的事実を伝える上では大きな効果を発揮します。しかし、数字だけでは人間味のある、記憶に残りやすいコンテンツにすることはできません。ストーリーテリングに取り組む場合は、数字との付き合い方についても考えていく必要があるでしょう。

ストーリーで強みを伝える

では、ストーリーテリングにおいてどのように数字と向き合っていけば良いのでしょうか。そのヒントについて、コンテンツマーケティング界の大家であるロバート・ローズ氏が語っています。

ローズ氏は2022年3月、コンテンツマーケティングインスティテュート内のブログでストーリーテリングについて述べていました。タイトルは、「売れるBtoBストーリーの作り方」。内容はやや難解でしたが、ストーリーテリングの応用ともいえるテクニックが紹介されていました。

記事中で紹介されているテクニックの名前は「プールの中の法王」。ある映画の一場面から名付けているとのことです。これだけ聞いても内容についてはさっぱり思い浮かびませんが、記事を読み込んでいくと「数字やデータをストーリーで表現せよ。そうすることで人々の記憶に残るコンテンツにすることができる」との主張だと分かります。

例えば、自社が他社よりも優れた高機能の製品を取り扱っていたとします。機能を誇るデータを並べたとしても、それを見た人はただの数字としてしかデータを見ることができず、記憶には残りづらくなります。ローズ氏は、数字ではなく物語によって機能性を裏付けなければならないと主張しているのです。

記事では、ある医療機器メーカーの携帯臓器冷凍装置を例に説明しています。装置の特徴は以下の通りです。

  • 華氏マイナス4度から120度まで耐えられる
  • 内蔵電池のみで48時間の温度持続が可能(氷は不要)
  • 温度偏差を知らせる安全アラームが備えられている

以上の機能について箇条書きで示したいところですが、ローズ氏は以下のように物語で伝えるべきだとしています。物語の主人公は、装置を開発したサム・スミス氏です。

「サム・スミスは、カリフォルニアで11カ月間、衛生兵として活動した。活動期間中に、同州の住民が『朝食時にスキー、昼食時にサーフィンができる』と自慢げに話すのを耳にした。スミスは、その言葉を信じていなかった。

スミスはある日、雪の積もった山頂からモハベ砂漠の真ん中に必要な物品を搬送するよう依頼された。冷凍車に積み込むとき、外気温は0度近くだった。数時間後に目的地に到着したが、外気温は118度に上昇していた。スキーやサーフボードはなかったが、スミスはようやくカリフォルニアの人々の主張が理解できた。しかし、それ以上に印象的だったのは、カリフォルニアの気候の多様さだ。

この旅では、冷蔵庫のアラームが一度も鳴らなかった。外気温が大きく変化しても、庫内温度は2.5度以上変化しなかったのだ」

ストーリーでは、装置の機能について直接的には触れられていません。しかし、過酷な環境下でも装置が役割を果たし得ることが伝わります。

自社の製品について誇れる数字があると、そのまま出してしまいがちですが、一旦こらえてみましょう。機能を説明できるストーリーがないか検討することが大切です。

ペルソナが情報を理解するためには、数字は欠かせません。しかし、数字は記憶に残りにくいもの。コンテンツの作り手としては、ストーリーと数字のバランスを考え続けていく必要があるでしょう。