コンテンツマーケティングは、ステークホルダー(利害関係者)のエンゲージメント(愛着)を高める効果が期待できます。これまでの記事ではコンテンツのオーディエンスは顧客と置いてきましたが、今回は社員向けの「社内コンテンツ」について解説していきます。

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社内コンテンツとコンテンツマーケティング

まずは、社内コンテンツについて考えるために必要な概念「Internal Communications」について解説し、コンテンツ作りに大切な考え方について見ていきます。

「Internal Communications」とは

社内コンテンツを考える上で大切な概念が「Internal Communications」です。直訳すると「内部コミュニケーション」。社員のエンゲージメント、社内コミュニケーションを向上させるためのソリューションを提供しているカナダの「jostle」の記事「7 reasons why internal communications is important」では、その概念について以下のように定義づけています。

Internal communications (IC) is all about promoting effective communications among people within an organization. It involves producing and delivering messages and campaigns on behalf of management, as well as facilitating a dialogue with the people who make up the organization. This can mean anything from announcing a new policy or informing people of an upcoming event, to conducting an org-wide engagement or culture audit. IC is usually the responsibility of HR, marketing, or PR departments, but can be done by any and all departments across an org.

「Internal Communications(IC)」とは、社内の人々の効果的なコミュニケーションを促進すること。経営者の代わりにメッセージやキャンペーンを制作、配信したり、社員同士の対話を促進したりする。これは新しいポリシーの公表やイベントの告知、会社全体のエンゲージメントや社内アンケートの実施などあらゆるものを指す。通常は人事部やマーケティング部、PR部が担当するが、どの部署でも実施できる。(筆者訳)

すなわち、社内のコミュニケーションを促進し、会社へのエンゲージメントを高めるためのあらゆる方策のことを指しています。

会社へのエンゲージメントを高めるためにコンテンツマーケティングの考え方を使う

では、なぜInternal Communicationsが重要なのでしょうか。先ほどの記事から、7つの理由について抜粋します。

1. Internal Communications keeps your people informed
2. Internal Communications gives people a more holistic view of your organization
3. Internal Communications helps build out your organization’s culture
4. Internal Communications gets your people engaged
5. Internal Communications helps keep people calm in times of crisis
6. Internal Communications creates another dimension to your workplace
7. Internal Communications creates a channel for feedback, debate, and discussion

1.Internal Communicationsは社員に情報を届け続ける
2.Internal Communicationsは社員により会社全体を見るよう促す
3.Internal Communicationsは会社文化の構築に寄与する
4.Internal Communicationsは社員にエンゲージメントを与える
5.Internal Communicationsは危機の際に社員が冷静でいられる助けになる
6.Internal Communicationsは職場に別の次元を生み出す
7.Internal Communicationsはフィードバックや議論、討論のチャネルを作る
(筆者訳)

1~4については、前述の定義によりなんとなく想像できる方も多いのではないでしょうか。5については、会社が危機の状態にある場合、それを隠していては社員の不信感が高まってしまいます。組織には透明性が大切なのです。6については、「もっと会社に関わりたい」「会社で成長していきたい」と考えている社員にとっては、社内のコミュニケーションを増やすことで、その気持ちに応えることができるでしょう。7についてはコミュニケーションを活発化させることで、自ずと社内の議論が深まります。

このInternal Communicationsに関して、インフォグラフィックの制作サービスを展開している米国の「Lemonly」のブログ記事「INTERNAL COMMUNICATIONS + CONTENT MARKETING」では、コンテンツマーケティングと同様に扱うべきだと主張しています。記事では米国の「Content Marketing Institute」のコンテンツマーケティングの定義を取り上げた上で、この定義に基づいて社員向けにコンテンツを配信しなければならないと説明しています。つまり、「社員が仕事をする上で役立つような有益なコンテンツを発信することがInternal Communicationsの基礎」ということです。

有益でないコンテンツはただのノイズになる

Lemonlyの記事では、社内コンテンツを考える上での注意点が並べられています。例えば、社員を「顧客」と置くと、「会社は顧客のメールアドレスを全員分保有している」と考えられますが、メールアドレスを持っていたとしても会社に関心が寄せられているわけではないと説いています。

これは「顧客のメールアドレスを持っている≠顧客は会社のファンである」ではないということと同じです。メールマガジンを配信する場合でも有益な情報が含まれていないと、それが社員向けであれ顧客向けであれ、単なるノイズとなってしまうでしょう。記事で取り上げられている調査では、71%の社員が会社のメールやコンテンツに関心を持っていないという結果が出ているようです。日々、社員は顧客から膨大な量のメールが届きます。自分にとって有益なコンテンツでないのであれば、会社からのコンテンツを無視してしまうのは無理のないこと。そういった意味で、「社員にとって有益な情報とは何か」を突き詰めて考えていく必要があるのです。

社内コンテンツの作り方

では、実際に社内コンテンツを作るときにはどのような手順を踏めばよいのでしょうか。普段から顧客向けにコンテンツマーケティングを実践している方は「顧客」を「社員」に当てはめて考えると分かりやすいでしょう。

コンテンツの目標を設定する

大前提ですが、コンテンツの目標が決まっていなければ、コンテンツの内容は漫然としたものになってしまいます。「そのコンテンツは社員にどんな効果をもたらすのか」「そのコンテンツを見ることで社員はどんな情報を得られるのか」など、コンテンツによって達成したい目標を必ず設定しましょう。

「ペルソナ」を設定する

そのコンテンツがどの層の社員に向けたものなのか考えましょう。「部署」「入社歴」「年齢層」「性別」「家庭環境」「会社への愛着度」など、一つの会社の中でも働いている人々の属性はさまざまです。後ほど社内コンテンツ例に挙げる社内報など、定期的に発信する媒体はペルソナ設定が抜け落ちてしまいがちです。なんとなく発信し続けるのではなく、コンテンツに意味を持たせましょう。

社内アンケートを取る

社員がどんな情報を求めているかアンケートを取りましょう。顧客向けのコンテンツを作る場合はすぐに思いつく手法ですが、「現場の声を聞く」というのは自社内のことになると意外と抜け落ちてしまいがちです。このアンケートは、例えば新入社員の教育コンテンツを作る場合にも役立ちます。商品・サービスについて顧客から投げかけられた質問項目は何か、社員にアンケートを取れば、有益な教育コンテンツを作ることができます。

「ビジュアル」を大切にする

先述の通り、社員は顧客対応などの日々の業務に追われており、しっかり作りこまれたコンテンツでないと見向きもされません。そのため、「ビジュアル」を大切にしましょう。文章や動画の長さは適切でしょうか。また、文章ではなく図やイラストなど、一目で分かるような見た目にはできないでしょうか。社員の目線から見やすいビジュアルを意識すれば、「会社は自分たちのことを考えて発信してくれている」と社員が感じ、エンゲージメントを高めることができるでしょう。

社内コンテンツの種類

社内コンテンツにはどのようなものがあるでしょうか。いくつか例を見てみます。

社内報

社内報は、従来から比較的取り入れられているコンテンツだと言えます。会社の動向や上層部の思い、社員の仕事ぶり、社員のプライベートな情報など、作成の自由度が高いコンテンツです。ただ、定期的に発刊されることが多いため、ややぼやけた内容になることが多いです。また、「社員が知りたい情報」よりも「会社が伝えたい情報」が優先されてしまった結果、「会社の決定事項の報告書」のような形となってしまうケースもあります。もちろん、そのような情報も重要ですが、「会社の決定」が「社員にどのような影響があるか」についても言及するのが望ましいでしょう。

メールマガジン、ニューズレター

メールマガジンは社内報のデジタル版とも言えます。ただし、社内でイベントやセミナーを開催する際に、メールに出席管理システムのURLを添付することで、参加状況の管理がしやすくなるといったデジタルならではの使い方ができるでしょう。

ニューズレターは、いわば手紙のようなイメージです。重要な決定があった場合、経営層から社員に知らせる手段として有効です。また、何かしら会社にとって良くない出来事があった場合でも、詳細を説明することで社員に安心感を与えることができます。そのような場合には、率直に、できる範囲で隠すことなく事実を伝えることが大切です。

ウェビナー

新型コロナウイルス感染症によって、研修が難しくなっている企業も多いのではないでしょうか。そのようなケースにウェビナーを活用する手があります。社員が知っておくべき基礎知識について解説したコンテンツを用意しておけば、社員は自分の好きな時間に学べます。ただし、習熟度の確認は必要です。終了後にウェビナーの内容に関するテストを用意するなどして、習熟度を確認しましょう。

社史

会社のこれまでの歩みをまとめ、本にします。しかし、ただ単に歴史を並べるだけでは誰も読みたがりません。会社のターニングポイントで中心となった人物にインタビューするなどし、ストーリー性を持たせることが重要です。難易度は高いですが、ストーリー性があり、読み応えのある社史が用意できれば、会社に対するエンゲージメントを高める効果が期待できます。

社内オウンドメディア

社員のみが閲覧できるオウンドメディアを制作します。テーマをしぼって運用するのが望ましいでしょう。例えば、活躍している社員のインタビューや、仕事をするうえで必要となる業界動向の情報など、社員が知りたいと思うような情報を集めたテーマを設定しましょう。アンケートを実施して情報の需要を知るのも良いでしょう。

福利厚生をまとめたインフォグラフィック

福利厚生について文章でまとめた資料は、どの企業も持っていることでしょう。しかし、細かい条項について把握している社員は少ないのではないでしょうか。福利厚生について一目で分かるよう、インフォグラフィックでまとめましょう。このような資料は、例えば採用活動などに流用することもできます。

顧客向けホワイトペーパー

顧客に向けたホワイトペーパーは、実は社内に流用できるものもあります。業界や商品についての知識は、社員にとっても有益な情報となりえるでしょう。ホワイトペーパーを作成した際は社員にも共有しましょう。

(ホワイトペーパーに関してはこちら)ホワイトペーパーとは? 概要や作成方法、事例をご紹介

「社内コンテンツ」は社外に流用できるものもある

今回は社内コンテンツについて解説してきました。顧客向けのホワイトペーパーが社内コンテンツに流用できるように、福利厚生をまとめたインフォグラフィックのように社内コンテンツも社外向けに流用できます。そのようにコンテンツの流動性を高めるためには「有益な情報」をコンテンツに詰め込むことを意識することが大切です。コンテンツの力で社内外のエンゲージメントを高めていきましょう。